今週の儲かる繁盛店の視点 第270話:「値決めが出来ない会社は、業務改革も出来ない!?必要なことは・・・」
先日、とあるチェーンの社長とお話ししていた時の事、とてもいいPB商品(プライベートブランド商品)があったので、御社のPBのこだわりは何ですか? と社長にお聞きすると、
「うちはバイヤーが産地に出向き、開発してきたものばかりなので、味がいいんです。この焼肉のたれは、NB商品(ナショナルブランド商品)よりずっと美味しいんです」
とのこと
―――NBより良い商品なのに、なぜ、同じ価格で売るのですか?伊藤は質問しました。
「そう、そう うちはNBと同じで安いんですよ。率はとれてますからまあ良しとしてるんですが・・・」
かつて、大手チェーンのPB商品は、NB商品の包材を簡素化したり、原材料費や宣伝コストを落として、お買い得感を打ち出す、低価格路線をメインにしてました。
人口増の時代に、数多く登場したPB商品は、NB商品の横にフェイスを設定し、価格を安く見せることで売上シェアを伸ばしてきました。
今、環境は一変し、人口は減少し、売上客数の減少が続いています。スマートフォンの普及で、食品の場合食べたいメニューのレシピはその場で入手でき、その商品が店になければネットで注文できる時代です。これは、衣料品や日用品も同様です。
今後、何処でも手に入るNB商品の価格競争は一層厳しくなり、単に安いだけのPBは話題にならないことから埋もれていきます。
そのため、最近は、SNSで話題となるような、品質重視型のプライベートブランド商品に取組まれる企業が多くなってきています。
前出のチェーンもまさにその路線のはずですが、価値と価格がどうも一致していないことが、気になり質問をさせていただいたしだいです。
最近、駅ナカ出店で急成長している高質スーパーチェーンのS社などは、PB商品の方がNBよりも高い価格に設定されていて、なかにはNB価格の倍近くの値段で売られている商品もあります。
そこで 次のことを考え、仮説を立ててみることにしました。
先のPB商品「焼肉のたれ」の販売価格は300円でNBの価格と同じです。1店舗1ケース24入で月3回転だとすると、月間売上高は21600円の売上になります。10店舗展開で値入30%とすれば、年間販売額は2590千円で粗利高は777千円です。
仮に、
この商品の価格を3割アップの400円で売るとどうなるか?
◆値上げ後と現状の差異
値上げ後売上 3456千 粗利 1643千
現状の売上 2590千 粗利 777千
―――――――――――――――――――
差異 +866千 +866千
と売上増分がそのまま利益となります。
こう言いますと、
「そんなにうまくいく訳がない」という声が聞こえてきそうですので…
そこで、値上げによって売上点数が3割減ったらどうなるか?についてもシュミレーションしてみますと、
◆値上げ後売上と売上3割減した時の差異
売上高3割減 2419千 粗利 1185千
値上げ後売上 3456千 粗利 1643千
―――――――――――――――――――
差異 -1037 千 -458千
この時点では 売上の粗利も3割減るのでマイナスになります。
今度は、現状の売上と、値上げ後3割減になった時との場合を比較してみます。
◆現状売上との差異
売上高3割減 2419千 粗利 1185千
現状の売上 2590千 粗利 777千
―――――――――――――――――――
差異 -171千 粗利 +408千
現状の売上に対して、売上は-171千円と減るものの、粗利は408千円増益することとなります。
これは1アイテムのシュミレーションですから、数百アイテムあるうちの30アイテムで価格見直しを行った場合×30で、12240千もの利益増となる計算です。
価格を3割値上げして、売上点数が3割減っても増益になるという例ですが、こうして、価格についてよく考えることで、投資せずにお金を生み出すことができるということです。
そもそも、この商品が世に出た時は、人口増で買上げ点数が右肩上がりであがっていくことを前提に、価格設定がなされました。
これから先100年は人口が減る時代です。それを踏まえますと、価格の値上げを検討しなくてはならない時期にきていると言えます。
価格の見直しなどで、悩むのがその「値決め」です。特にPB商品は、企業の思い入れが込められていているものの、この値決めによって、会社の未来が大きく変わってきます。
この決断こそ、社長を中心とした経営改革プロジェクト仕事といっても過言ではありません。しかし多くの企業がここを商品部任せにしてしまい、企業躍進のチャンスを失っているということです。
よくあるのが、前述の「焼肉のたれ」のような、NBと似たような商品があったときにその価格よりも上にいくか、下をいくか?という問題です。
社内では社長の経営改革プロジェクトのもと、やれローコストだ、やれEDLPだ、という情報だけが独り歩きしています。
こういった環境の中ではどうしても、商品部内でも、安いことはいい事、安さこそが全てと偏った考えになりがちです。勝手に値上げして「売れなかった」となればバイヤーの責任問題になりかねません。
その結果、価格の値決めについても、同じか下へ行くことを無意識にのうちに考えるようになります。大事なことなので繰り返しますが、これから先人口減が進む中、低価格のままであれば、収益確保は困難となります。将来の成長に向け、ここでのPB商品の値上げは、収益構造を確固たるものにするために避けて通ることができないのです。
かと言って、一方的に顧客に会社都合を押し付けることはできないわけで、これまで時間をかけ築きあげてきた顧客の信頼をもとに、一品ごとにその価値を適正な価格にしていく手続きは取っていくようにします。
例えば、その商品は「好調」なのか「普通」あるいは「不調」なのかを把握していくと同時に、その利用者を知ることも重要です。年齢性別などから、利用者のターゲットが競合のPB商品ターゲットと重なっていないか見極めをしていきます。
加えて「機能」「利点」「価格」を箇条書きし、自社商品と比較してくことも忘れてはなりません。このデータを重ねあわせることで、今ある価格を変えることができるかどうか?に、今後、大きく役立てることができます。
「利は元にあり」という言葉どおり、利益は上手な仕入れから生まれます。よい品を有利な値で仕入れ、戦略資金が確保できる、値決めをしていくことで会社を成長させていくということです。
そこでは、会社として一貫した考えが根本にあり、それを実現化させていく幹部にそういったスキルがあって、LSPを仕組みとして回せるノウハウがあってはじめて、人時売上高を上げていくコトができます。
単にLSPを入れ、五月雨式にコストカットを進めようとすれば、瞬く間に、資金繰りは苦しくなります。
よくあるのが、売上粗利向上策をもたぬまま、コスト改善先行でやろうとして、そのコスト改善が上手くいかず、収入減のまま、出ていくコストだけが固定され収益悪化となるパターン。
社員に対して、給与も上げられず、休みもとれないことから、士気は上がらず、活気がなくなっていくのはそのためです。
LSPの導入のための調査等に何年も時間をかけ、値決めのように考えてすぐに答えをだすべきことに十分な時間をかけてない。
こういった本部の行き当たりばったりの業務改革の時間配分が収益悪化を招いていることに気が付かないのです。
やっかいなのは、取り組んでいる最中は、こういった重症状態にあるにもかかわらず、表からは全く分からないということです。
人間の体は、事故などで頭をぶつけた時など、表面上は異常なくても、CTやMRIといった検査をしておかないと、ダメージがあった場合生死にかかわることもあります。
目に見えない部分を映像にするために放射線検査をおこない、外側から全く分からない病気を撮影し、医師が早期発見をして治療法を決定していきます。
チェーン経営も同じで、日々の見えない店舗業務内容を人時割レイバースケジュールで可視化し、経営改革プロジェクトチームはその画像を見て、どこに問題があってどう解決していくのか?を決定していきます。
大事なことは、こういったプロジェクト運営も、店舗オペレーションの解析にしても、全て新たにコストがかかってくるということです。決してただではできないのです。プロジェクトだからしかたがないのでは、お金は残りません。儲かるチェーンとなるためには、プロジェクト自体が、儲けをあげていく仕組みになっていなくてはだめで、積極的に新たな収入源を求めていく考え方が必要なのです。
新たな収益方法を設定し、そこからコストを捻出していく思考パターンこそが、個店力を最大化させる唯一の方法なのです。
さあ 貴社ではまだ、店舗と本部それぞれが、バラバラに動いていますか?それとも一貫した経営ビジョンの元でお互いが協業し合い、個店の力を最大化させる体制で動き始めていますか?