今週の儲かる繁盛店の視点 第411話:「なぜ、人件費対策で作業割当表作成をメインにしてはならないのか?」
先生 作業指示書を作ろうとしても 何をどこまで記せばいいのかよくわからないのです。とある企業の社長さんからのご相談です。
聞くところによると、売場長に作業を割り振らせようとしても、作業の種類が多く、フォームに収まらず書ききれない。また、それを作るよう指示しても長続きしない。とのこと。
社長さんご自身も現場に入りおやりになられたそうで、「これは ちょっとや、そっとでは、出来ないことに気づかれ、何とか出来る方法ないか?」と考え、社長さん自らセミナーにご参加になられました。
仕事柄、多くの経営者の方とお会いする機会がありますが、「とりあえず出来るとこまでやってみて…」とか「上手くいくようだったらやってみるか…」といったことで「人時」を始めようとすると挫折してしてしまうんです。というお話は良くお聞きします。
しかし、先の企業の場合ちょっと様子が違っていました。引き継いだチェーンで店舗規模を拡大し、多角化事業分野では売上はとれていたものの、「本業の店舗事業は回復の目処が立たず厳しい…」という状況が3年半以上続いていました。
ホームページ、店舗改装、話題商品等、目に触れるモノなどでは「売れてる企業」を演出し、地域では「すごいですね~」ともてはやされていたものの、後継社長としての実績はゼロでした。
「このまま、チェーン企業をやっていくことができるのだろうか?」という不安でいっぱいだったそうで、その苦しい胸の境地を打ち明けられたことをはっきり覚えています。
その時、お伝えしたことが、拙著「儲かる個店力最大化のすすめ方」の中でも触れている、EDLCの4象限の図解による「店舗経営実態の構図」でした。
これまで取られたやり方のどこに問題があったのか?お気付きいただくためです。
チェーン経営といっても、我々が目指す「構造的に収益をあげるやり方」の他にも、「見映えや形を重視したもの」「売上・集客にポイントを置いたやり方」といった「似ているやり方」がたくさんあります。
これらのやり方は表向き似ていますが、明確に異なり、そしてやっていく戦略はまるで違うということです。
かいつまんでご説明すると、お金の使い方の決裁権を持っている本部と、お金を稼ぎ出す店舗との目標や指標が異なると、店舗の生産性を上げることになっていかない。ということです。
要は各主管部門だけの指標で、いくら大金をかけても、それが一時的な効果であったり、事業限定であれば、全体の底上げになりませんよ、ということです。
あまりにも当然のことなのですが、こちらの企業はじめ、世の中では、このセオリーを無視して、主管部門主導でやって悪戦苦闘している方が本当に多いのです。
理由はいくつかあるのですが、多く人を抱える企業の場合、自社の中身を客観的に捉えることが、想像以上に難しいということです。
現実問題として「売上・利益」ぐらいは頭ではわかっていても、「人時」も同時に全て見ていくことは容易なことではないからです。
しかも、自社のことになると、驚くほど見えなくなってしまい、ついつい自己都合で考えていってしまうことが非常に多いのです。
実際、作業割当表などを拝見すると、
----この通りにできれば、利益が増えるようになっていく内容ですか?
と質問してみると、
「う~ん…。とにかく、空いてる時間を埋めることから始めませんと…」
といった答えが返ってきます。
企業の利益目標と、店舗の実態がズレてることに、社長ご本人も気づかれているのかもしれません。
しかし、確証がもてない、いや、確証をもってしまい、間違いに気づくのが怖い…ということかもしれません。
いずれにしろ、ズレた内容で店舗事業が行われ、そこに販促強化策が追加されたり、改装が行われれば成果が出ない…とういことになるのは火を見るよりも明らかです。
始末が悪いのは、中には、その違いを理解せずに、すべてごちゃ混ぜにして出来ない理由を並べる人がいるということです。
本やセミナー、ネットで聞きかじってきたことや、各主管部門の関連業者から聞いた「経営にとってやりやすいやり方」と「企業全体の収益力を高めていくやり方」とでは、まるっきり異質で次元が違うものです。
実際、前出の企業の場合、お会いする数年ほど前から、作業割当表と称したものをエクセルで作っておられました。
社長曰く、「どこかに似たような人時を使ったソフトがないか探したもののみつからない」ため、とにかく出来るとこまで、自社でやってみることにしたそうです。
このコラムをお読みいただいた方ならお分かりになると思いますが、読んで字のごとく「人時」という言葉がついているということは、その意味や目的を理解できていることが大前提となります。
本やネット情報でお勉強するのは自由ですが「エクセルで作業割当をする」というレベルと、「社内の人時を無駄なく使い、全社の収益力を変えていく」のでは目指す目的や結果も全く別ものになってくる。ということです。
大変失礼な物言いかもしれませんが、「エクセルで…」という発想時点でアウトであり、これでは全体の数値を変えていくことにならないからです。
エクセルは誰でも楽に使うことが出来ますが、メリットは利用ハードルの低さやコスト面に限られます。簡単安価=収益向上。にはならないということです。
デメリットのほうが多いのが現実で、勤怠、物量、売上、作業×売場長の数×店舗数といった、大容量を扱う人時売上には極めて不向きだからです。
語弊を恐れず申し上げれば、エクセルは改修を重ねるうちに複雑化し、集計や分析の工程が作成した人しか保守ができません。また、簡単に入力ができることから誰かがフォームや内容を書き変えると使えなくなってしまいます。一番大きな問題は、同時に複数人数で出来ない為、情報更新に時間がかかったり、簡単に持ち出せるので勤怠データの個人情報も外に出てしまうということです。
ITだから、何でも一緒、エクセルですべて出来ると思っている社長さんはいないと思いますが、前出の企業もエクセルを使い、紙に打ちだして、手書きで作業を書き込むという。アナログ的な使い方をされていたことから、自社のポテンシャルを活かすことなく、実に3年半近く迷走されていたのです。
儲かるチェーン企業になるためには、まず「目指すポジショニング」を設定することであり、店舗経営実態の構図で言えば「人時売上と顧客満足度を目指すゾーン」にしっかり定め、それにあわせ、全社の利益を変えていく戦略を組み立てていくことに尽きます。
そのためには、こうした手順を飛ばさず行うことで、自社の規模に合ったツールで収益力を上げる道筋は見えてくるものです。
さあ、貴社ではまだ、エクセル方式で何でもやる体制で周回遅れを続けますか?それとも、目的に合わせた仕組み作りで、人時売上向上の道を駆け上がりますか?