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今週の儲かる繁盛店の視点 第266話:「出来ない理由ばかりが飛び交う、その根本原因は何か?」

先日も、ある企業のプロジェクトでこんな話がありました。

毎日の基本業務のひとつに、価格チェックという仕事があります。現場の人からみると、「なぜ、きちんと価格が配信されているはずなのに、チラシ商品の価格を確認しなくてはならないのか?」
という、問題が非効率業務のひとつとして出てきました。

この意見を言ってくれた 青果売場のパートナーさんは、「社内では、あまりにもあたりまえのことなので、こんなことを言うべきではない。という暗黙の了解があって言いにくかった」とのこと。

さらに聞いていくと、チラシの初日は、価格確認するのですが、終了日はしない。ちゃんと戻っているのもあるが、そのままのものもある。

プライスカードは高く表示されているのに、価格は特売価格のままで販売されていたりすることもあるそうです。

運営部としても、店によっては異常に粗利の低いところもあって、そういったことが原因かと言われていたものの、日々の忙しさに追われ、放置状態になっていました。

それはさておき、どれくらいのアイテムで価格違いが発生しているのか?実態を一カ月間調べてみることにしました。

そして一カ月後、果たして、再び調査結果をお聞きしに運営部長と訪れますと・・・・

価格間違いを起こしていたのは、意外にも少ない月2件という結果でした。

運営部長曰く「これくらいなら 私が商品部に注意することで解決できます」

「そうですか… 」改善意見を出してくれたパートナーさんの顔がすぐれません。

―――どうされましたか? 伊藤は質問しました。

「問題は、件数じゃないんです。たった2アイテムのために、チラシ投入日に、全員で早出して全ての特売アイテムの価格チェックをする(作業)時間がもったいない」ということだったのです。

実際には、価格チェックは毎回20分かけ週3回のペースで行われていました。1週1時間です。この店にある5つの売場で同じチェックが行われていましたので、週あたり5時間、年間260時間かかっていることになります。

時給1000円換算で、年間で260時間かかっているとすれば260千円。10店舗あれば、2600万円がこのチラシ価格チェック作業に毎年お金を投じられていたことになります。

断っておきますが、価格チェック作業が無駄だと言ってるわけではありません。価格間違いはレジでのお客様の苦情になる最大の原因の一つですし、今の時代、表示価格の信用できない店は論外だからです。

早速、この議題を社長同席のプロジェクトの中で、非効率業務の一つとして、解決方法を議論しました。

問題は、旧式の商品マスター管理システムの脆弱性にありました。しかし、このシステム投資には、数億単位の投資が必要になります。数年後にやるにしても今すぐには手を付けることはできません。

店舗運営上で解決できる方法として、チラシ本数の見直し(案)が出てきました。現状3回訴求しているものを 2回ないし1回にしようという試みです。訴求内容を変えずに、訴求期間を長くする方式に変えていくコトにしたのです。

これによって、価格チェックの時間は半分にすることができましたが、それ以上に大きかったのは、今まで週3回行っていた特売売場の変更回数が、2回~1回になったため、その売場づくり、POP取り付け、商品移動にかかる業務が減り各売場の残業時間が減ってきたのです。

さらに、商品価格の訴求期間が伸びたことで、特売商品の販売点数が増加し売上が上がり始めたのです。

今までは、こまめに売場を動かし変えることが、お客様を飽きさせず来店動機を促すことに繋がる。といったことが定説化していました。

ところが今回実施した仮説と検証によると、一週間特売コーナーを固定することで、おすすめ商品が認知され販売点数を大きく引き上げる。ことが見えてきたのです。

そのため、今では2週間展開、中には1カ月展開といったロング訴求の特売コーナーをつくりそれが大半を占めるようになっています。

こんなこと・・・ やろうと思えば店長裁量で出来ること。と思われますが、

チラシの訴求期間、回数については、社長の決裁が必要ですし、価格設定については商品部長の承認が得られなければ絶対に不可能なことです。

たったひとりの青果売場のパートナー社員の小さな意見が、3カ月後のこの店の利益構造に大きく影響したのは紛れもない事実です。

企業にとってみれば、当たり前のことも現場に目を向け、吸い上げ解決していく思考法をもつことで、利益は短期間でキャッチアップできることを証明したひとつの取り組み事例の一つです。

経営として、チラシのあり方を見直さなくてはならないことは、どの企業の社長も考えています。しかし、チラシを単純に止めれば売上は落ちる。
もし そうなったら ほらみたことか!と恐怖の一言が経営に突きつけられる。と誰もが考えます。

経営とは そういった姿カタチの見えない、恐怖心と対峙することであり、恐怖心との闘いといえます。

実際に、この恐怖心を乗り越えられてきた方なら、お分かりになると思いますが、やる前にこういった根拠のない意見を言う人はたくさんいても、やって結果を出した後にこういった意見を言う人はいない。ということです。

ここで考えてみていただきたいことがあります。こうした、大事なことを決断する時、経営者のあなたは、誰に相談しますか?ということです。

おそらく、チラシを止めた場合の費用対効果はいくらか?と最初に聞く相手は宣伝部でしょう。宣伝部長は、チラシ訴求を減らして効果がでるというテストのやり方はしません。

次に相談する相手は店舗運営本部です。店舗運営部長は売上低迷の理由をチラシのせいにすることができなくなるので、そういった話し合いのテーブルに着くことは避けるようになります。

チラシを止めたらどうなるか?最後に聞くのが、奥さんや母親です。「そりゃ、無いよりある方がいいにきまってるじゃない」皆さんそう言います。 

どういうことだかわかりますか?

各自の方が 悪気あることを言っているということではありません。自分の立場でそれぞれ言いたい意見を言っているのに過ぎないということです。

それは、現状を変えることについては暗に反対しつつ、余計な事を言って自分に火の粉がかからないように、当たり障りのない意見を皆が言っているということです。

企業の収益向上とは関係のない意見であり、また、変革に必要な決断材料は何一つ含まれていないという事です。

これから先起こる人口減少、新聞購読率の低下。そういった環境の変化の中で、チラシに頼った発注や売場づくりを続けていけば、売上はどう変化し、それにかかる作業量に目を向けた場合、儲けを上げ続けることができるのかどうか?そういった客観データにもとづき、きちんとした見解をもった人に相談したうえで、決断すべきコトとだということです

こういった信念に基づき、打つべき手を変え実行していく。その指導をするのが社長なのです。

そこで、壁となる恐怖心とどう戦うか?ということです。

「井の中の蛙大海を知らず」という言葉がありますが、身近な相談しやすい人ばかりに依存すると、狭い見識にとらわれ、他に広い世界があることを知らないまま、他の世界への恐怖心を増幅させます。

それがすべてだと思い込み、自分の心の中の見識に捉われ、他に素晴らしい市場があるのにチャンスを掴みそこなう。ということです。

今は、SNSや動画で世界中の取り組みや話題を、誰でも簡単に入手することができる時代です。

先の青果売場のパートナーさんもそういった情報を探し、そういったことはいち早くやったほうがいいと感じていたから出てきた意見で、それを謙虚に受け入れ、決断された社長の勝利と言えます。

業務の見直しや、改善は各部門や各店がやるべき…。確かにその通りです。

但し、それには、強力なリーダーシップと企業理念が明文化され、それを実現する仕組みがあることが前提です。

こちらの企業もそこまでは準備が出来ていません。

しかし

このパートナーさんは自分の職場環境を変えたい想いから、自らの意見を差し出しました。社長は早期のシステム投資を確約し、運営部長の提案した訴求期間の見直しを商品部長は承認しました。この会社を愛する一人一人がそれぞれの生き方をこの職場で実現するために差し出した意見は、3カ月で会社に大きな利益をもたらしたのです。

さあ、貴社では、まだ、出来ない意見が飛び交う状態のままでいきますか?
それとも
開かれた経営プロジェクトのもとで、各自が会社に利益をもたらす体制を実現させますか?


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