今週の儲かる繁盛店の視点 第328話:「売上拡大の延長上に、人時売上が上がることは決してありません。今、御社に必要なコトは…」
「先生、人時生産性を上げる体制を社内で作ろうと、頑張ってきたのですが、どうも結果が伴わなくて…」とある講演会で、私の話をお聞きになられた社長さんからのご相談です。
聞くところによると、人時について何年も前から、社員には研修や本で勉強させ、LSPの出来るスタッフも採用し、標準化を目指し、取り組んだのに、肝心の人時売上高は一向に改善してこない。とのこと。
その数値をお聞きすると、確かに低く、これでは利益が出ないのも無理はない。といった状況です。
――――失礼ですが、人時に関する経営戦略をおまとめになったモノはありますか?
「そういったものは、ありません、それが何か?」と社長。
――――語弊を恐れず申し上げれば、研修・LSP・標準化の前に、経営として、人時生産性に関する戦略を策定しておくことです。とハッキリ申し上げました。
理由は簡単で…人時生産性に限らず、経営者が目標、やり方手順を提示していかない限り、企画の成功確率は上がらないからです。
例えば、家を買う時、外観デザインやレイアウトの図面があって、それを元に建築工程が決まり、現場監督が、施工管理を進めていきます。
もし、これが逆だったらどうなるか?ということです。仮に、安い賃金で働いてくれそうな現場監督や職人さんを先に集め、どこかで安い材料を買い込んで、この土地にどんな家ができるかどうか?みんなで話し合い・・・。といったやり方で家を建てるようなものです。
現実的にはこんなことはありえませんが、そうなれば、工期は遅れ経費もかさみ、まともなマイホームが建たないことは、誰の目にも容易に想像できます。
チェーンの人時を使った生産性改革も同じで、まずは企業戦略を体系化し、目標設定とやり方手順を設定していくことが先となります。
現場の意見も反映させていく場面も、あるものの、そこに掛ける時間は一時的で、最初から、現場に依存したやり方で進める事は絶対にありません。
前出の企業は、社員に研修会に参加させ、本やネットから情報を集め、どこかの企業でLSPに携わっていた人を登用し、人時に関すること寄せ集めれば、なんとかなるといった、社長の想いでスタートしました。
ところが、やり方は全て担当者任せ、目標期限も決まっておらず、すでに手詰まりとなり、運営部長に、そっとお聞きすると「社長がいつか忘れてくれることを密かに願っていて、このままでは、ムリです」という、テンパった状態でした。
こういった事態を避けるためには、経営が、生産性を上げていく方針を提示しながら、現場と数値が変わる様子を関係者が共感しながら実績を積み上げていく事です。
経営としての業務改革の戦略を描くことで「売上高」から「人時売上」に目標が置き換わります。それによってやるべきことは変わり、そこに出てくる結果も変わってきます。
ではどうすれば、そういった戦略をつくることができ、それを自社にものにできるのか?
一言でいうなれば、それは、企業の中で実現困難であった想いを実現させるものであり、継続的に力を発揮し続けるものを作るということです。
業務改善ノウハウを、自社で、結果を出せるようになるといったゴールは同じでも、スタート前に、やるべき手順が決まっていないと、スターと同時に多大な負荷がかかり、何ひとつ結果を得られず、計画がとん挫することが多いのです。
冷静に考えてみればお分かりになると思いますが、作業指示書をLSPに変換させ、勤怠人時・売上・客数・商品物量を同時に…一つの画面に纏め判断ツールとして活用できるようにするのに、エクセルシートでは、到底太刀打ち出来ません。
それは、日々自動的にアップデートされ、昨日の状況や今日の予定がその場で確認できることが、これからはあたりまえとなり、店長がすべきことは、確認と判断、修正。といったことだけに集約されます。
また、人に作業がついた過去のやり方を 作業に人を付けたツールを作り替えていくためには、その内容を、データ化していくプロセスも必要となります。
そこでは、多くの人からの現場での協力が必要で、その過程を経ることで、本当に現場で活用できる生きたLSPができあがっていきます。
どこかの企業で使っていたLSPを、退社した社員が持ち出し、コピペして使おうとしても上手くいかない理由はここにあります。人の理解や協力を得る手順を踏まないことが、働く者にとって、決して信用性あるものになりえないからです。
社内で認知された、LSPを使い人時売上がある程度コントロールできるようになりますと、ワンランク上の目標に着手していくことになります。
それは、今、自分たちが取り組んでいることは「お客様の目」にはどのように映り、評価されているのか?ということです。
人時売上は、売上と違い、自らの手で上げていく事が出来るものです。ともすれば、自社都合優先で、作業指示書が出来上がってしまうことがしばしあります。
それを見過ごせば、顧客満足度は低下し、客数減を招くことになりかねないからです。これを経営として監視し、改善し、客数アップを回復させるベースとなるのが、顧客満足度スコアです。
言い換えますと、人時生産性の目的は、企業利益率を上げつつ、顧客満足度を上げる仕組みを同時に取り組む。ことで、企業を成長軌道に乗せていくことといえます。
少子高齢化の時代、企業の結果を変えていくことは、決して楽ではありません。であるからこそ、毎年減りゆく売上を眺め、変わらぬ商売を続けるより、新たな指標となる人時売上・顧客満足度といった目標を掲げ、結果を変えていく面白さを実現できることは、これから小売りチェーン企業を盛り上げる新しいスタンダードと言えるでしょう。
さあ、貴社では、まだ 売上が上がれば、人時売上もあがると信じ、消えた売上を探し続けますか?それとも、新しい価値基準で新規顧客獲得策に着手しますか?