今週の儲かる繁盛店の視点 第377話:「店舗コンディション改革は静かに穏やかに進む、本業の収益改善に欠かせない2つのこととは?」
少し前のことですが、あるチェーン企業の方との個別相談の席で「とにかく何でも、先生の言われた通りにやりますので、なんとかよろしくおねがいします…」という言葉が、今も耳に残り忘れることが出来ません。
もちろん「何でも」というのは、言葉の意味通りではありません。引き継がれた歴史あるチェーン企業の経営者として、活躍することを目指していたにもかかわらず、思い描いていた通りに全然進まない。
やっていくための方法を教えて欲しい…という意味です。
聞くところによると、チェーンで店舗数を拡大し、不動産を活かした多角化事業は順調にいっていたものの「主力の店舗運営の利益率は下がる一方で回復の見通しが立たない」とのこと。
会社案内のパンフレットやホームページ、SNSといった一般的に目に触れるモノや、商工会議所や同業の集まりの会などでは「売れてる企業」を演出し、周囲から「すごいですね~」ともてはやされても、経営者としての実績はこれまで無いに等しい状態だったのです。
「このまま、チェーン企業をやっていくことができるのだろうか?」という不安でいっぱいだったと述懐されてたのをハッキリと覚えています。
その社長にまずお伝えしたことがEDLCの図解による「店舗経営実態の構図」でした。
これまで取ってきた戦略ミスに気付いてもらうためです。詳しくは拙著「儲かる個店力最大化のすすめ方」をご覧いただきたいのですが、チェーン経営の店舗が構造的に収益をあげるポジションの取り方についてご説明しています。
少々ややこしいのは、収益ポジションは、他にも、「見映えや形を重視したやり方」や、「集客にポイントを置いたやり方」といった「似て非なる活動」があるということです。
それぞれのやり方は明確に異なり、ポジショニングが変わればやっていく戦略はまるで違うという点です。
かいつまんで申し上げますと、お金の決裁権を持っている各主管部と、サービスを享受する店舗の目的が一致していないと、どれだけお金をかけても 店舗の生産性を上げることはできない。ということです。
要は 各主管部門の基準で、効果の出そうな店を選び出しお金をかけても、全体の底上げにつながならず、会社としての利益率はあがりませんよ、ということです。
「そんなことはわかっている」「そんなふうに、させてるつもりはない」という声が聞こえてきそうですが、
仰る通りあまりにも当然のことなのですが、こちらの企業はじめ、世の中では、このセオリーを無視して、悪戦苦闘されてる方が本当に多いのです。
そうなってしまうのに理由がいくつかあるのですが、
ひとつ目は、自社を客観的に捉えることが、想像以上に難しいということです。
頭ではわかっているつもりでも、「お客様から見てどうか…」という視点に立つことは容易なことではないからです。
しかも、自部門のことになると、ビックリするくらい見えなくなってしまい、ついつい自己都合で考えていってしまうことが非常に多いのです。
実際、作業指示書の中身を拝見し「この内容は来てもらいたいお客様にとって、興味をもってもらえるものになっていますか?」と質問してみると、
「う~ん、どうでしょうか、まずは売れることが大事ですから…」などと、
お茶を濁したような返事がよく返ってきます。
本当に来て欲しいお客様像と、実際の対象がズレてることに、社長ご自身もうすうす気づいていたのかもしれません。
あるいは、確証をもってしまって今までやってきたことを否定するのが怖い…という不安かもしれません。
いずれにしろ、お客様の購買行動とズレた作業指示書で店舗運営が行われれば、作業だけが増え成果が出ない…現実問題として、本部の指示で店舗の作業は増える事はあっても、減ることが無いように、どうなるかは明らかということです。
悪戦苦闘する二つ目の理由は、冒頭でお伝えしたとおり、「似て非なる活動」のやり方を「そうするもの」と思い込み、マネようとすることです。
特に困ったのは、主管部門の中に、そうした違いが判らないまま、取引先情報やネットで聞きかじったことを盾に、自部門の正当性を強く主張してくる部門があるということでした。
「各主管部門のお抱え業者から聞いた部門優先のやり方」と、「社内の信頼感を高め、企業全体の収益力を高めていくやり方」とでは、まるっきり異質で次元が違うものです。
同じように捉えていたこと自体、そもそもむちゃくちゃと言わざるを得ません。
実際、こちらの企業の場合、LSPを導入し始めて1年半のタイミングでした。LSPとはレイバースケジュールプログラムのことで、人時を使った作業指示書のことです。
日頃、イトウがしつこく申し上げているように「人時」について意味や目的が理解できていることが前提となります。
社長曰く、どこでもそういうツールは一緒だと思い、主管部門が知ってる取引先の紹介ということで、あまり深く考えず導入されたそうです。
正直なところ、「これでは、人時生産性そのものを変えるのはムリ…」というものでした。たいへん失礼な物言いかもしれませんが、やってますといっても、会社全体の数値を変えていく内容ではなかったからです。
表面的に導入やり方を教わるのは構いませんが、「教える人と売場担当者間で何となく使う」というレベルと、「社長中心のプロジェクトで社内の信頼感を増幅させて、全社の人時生産性の数値を変えていく」のでは目的も意識も全く異なってくるからです。
人時生産性とは「会社の重要な部分をさらけだし向き合うこと」であり、それを現場の担当者に「やっておくように」と丸投げしてる段階でアウトということです。
ツールの使い方の教えに従い、業者と店の担当者で「業務改善と似た非なる活動」を一生懸命やっているレベルで、企業のポテンシャルも活かせないまま、1年半以上迷走していたのです。
本業で儲かるチェーン企業になるためには、こういったツールを入れる前に、まず「企業として目指すポジショニング」をハッキリさせることです。
そのためには、まず、店舗人時生産性と対顧客店舗コンディションの最大化することに目標を定め、戦略をそれにわせて策定することです。とハッキリ申し上げています。
このことをご理解いただいた上で、前出の企業では業務改革プロジェクトを立ち上げましました。
こうしたことを、一切手を抜かずにじっくり取り組んで行ったことで、今では、本業回復どころか、当初の3倍以上の営業利益率を生み出せるようになり、新たな目標を掲げ、着実に成長軌道に乗せています。
さあ貴社では、まだ、現場丸投げでどこに原因があるのか分からないまま低迷を続けまか?それとも、経営が主体的に行う構造改革で主力事業の発展を手にしますか?