今週の儲かる繁盛店の視点 第380話:「なぜ、売上対策を切望する企業ほど生産性が低いのか?」
「先生、人時生産性を上げるには売上を上げることも大事だと思うのですが…」とあるチェーンの社長さんからのご相談です。
―――仰る通りです。では、直近10年でどれぐらい売上を伸ばしてこられましたでしょうか?
「2~3%ぐらいかと思いますが…」
10年間の売上で3%とすると、年率0.3%の伸びということになります。これが高いか低いということはさておき、10年間手を抜かずに、頑張ってやってきた結果だということです。
では、その売上を支える販管費率はどうであったかというと、ここ数年で年率0.2%のペースで上昇しています。
この先、売上・粗利も横ばいとすると、営業利益率は10年後には、2.0%減になっている可能性になり、同じやり方を続ければどうなるか?ということを示唆しているということです。
簡単な話、コントロール出来ない売上アップ一本だけというより、コントロール可能な販管費運用の両面で、収益アップ出来る仕組みに切り替えていかなくてはならない。ということです。
「販促強化も見直すということでしょうか?」という声が聞こえてきそうですが、
販促強化についても販管費はかかっています。企画ごとに収支結果がどうであったか?を確認し、部分最適型から全体最適になるように移行させていくことになります。
ビジネスは全体最適で考える。ということを大前提に考えたとき、「会社全体を一つの単位とし考え行動する」ことが重要となるのは、誰でもわかることと思います。
そうは言っても、多くの人が関わる企業で「全従業員が一つの単位として動き、考える」ということは、現実的にはできません。
そのため、規模が大きくなればなるほど、「チェックするだけ」とか「計画を立てるだけ」「電話対応だけ」「購買だけを管轄」など、どんどん理想から遠のいていきます。
そう言う意味から、プロジェクトを組んで進めるユニット制や事業成果を明確にしたドメイン制などは、その理想に近づこうとする試みと言えるものです。
企業にとって全体最適が重要であることはわかっていても、その実現は難しいということです。
さて、ここで考えていただきたいのは、「小売企業は、従業員をたくさん抱えている」という事実です。
従業員数が少ない企業の場合、大量の商品を動かし回していくことは難しく、そのことがネックになりますが、チェーンビジネスであれば、もともと人がいるので、環境の変化に応じで、動かすことができる、ということです。
つまり、人件費という固定費的な弱点はもちろん抱えているとしても、ビジネスの構造的な面で言えば、有利な面を持ち合わせているともいえるのです。これは、とても重要なことです。
ビジネスの優位性とは、規模の大小ではなく、「事業=ビジネスモデル」だということを、正しく理解しているかどうかにあります。
ちなみに、ここで申し上げている「事業」とは、表面的な業種業態ではなく、本質的に、どう収益をあげるのか、ということです。見た目と実質では、大きく違うことがあるわけです。
たとえば、業種区分では同じスーパーマーケット企業やGMS企業でも収益モデルはさまざまです。
家賃収入によって成り立っている業態もあれば、自社で商品仕入れ販売をしっかりやって成り立っているところもあります。
大切なことは、業種や業態の違いよりも収益の上げ方、つまり「ビジネスモデルはどうなっているのか」ということです。
この着眼なくして、「同じ業種だから似たような事業」と思っていると、事業を成長させるポイントを見逃してしまいます。
簡単な話、テナントなどの家賃収入がメインの事業の場合、店の空き区画が収益に直結します。
共有部分のクリンナップやメンテナンスであったり、館トータルの販促企画も重要です。
また、すぐに入居してもらうには、今話題の業種や、業界トップの企業との日頃のお付き合いが重要となります。
ライバル施設に競い勝つためには、常に欠落業種を入れるための準備や、家賃を下げてでも入ってもらう事を考えると、別の収益源を確保しておくことも重要になります。
一方、自社で仕入れ販売を行う業態であれば。店舗コンディションとなる、「品切れが無い」「店員の接客態度」「価格の安さ」「品質」といったことが、他社よりも常に良い状態にあることが、お客様に来ていただく重要なポイントになります。
国内チェーンの多くはここに分類され、ここに多くの従業員を抱えています。
大事なことは、頑張って得た収入を実質的に支える販管費の構造に目を向けるということです。
どの業態においても、自社の土地に建物で展開するいわゆる自社物件と、土地を借りて展開する借地物件の2つのパターンに分かれます。
自社物件のメリットは、家賃が無い分、販管費は圧倒的に低くなることから、その分利益が残る計算になります。
かつて、大手チェーンが地方に進出した時も、低価格を武器にした、地元スーパーがビクともしない黄金時代がありました。家賃がかからない上に、人件費を安く抑えることができたため、商品価格を下げ優位性を保つことが出来たからです。
しかし、労働人口減少で、人件費と商品原価は上がり続け、そこに最低賃金の上昇や労働条件の改善の是正が加わり、その差は縮小しました。
また、土地購入には高額な金額が必要なため、同じ方式での出店には時間とお金かかります。
人件費増で、販管費が増え続けたことから、利益は減り、なかには、店舗閉鎖や優良資産を切り売りでしのいでいる企業もある。ということです。
この先、競い勝っていくためには、人件費を中心とした販管費をいかに下げることができるかが重大なテーマとなります。
現在抱えている多くの人を有効活用し、成功に向け動き出すために、人時戦略やレイバースケジュールの活用はもはや必須となってきます。
この仕組みによって、出店のハードルが下がり、新規出店のステージへ打って出ることを可能にすることができるからです。
「うちは、自社物件だけでやってきたし、この先も現状のままで…」といった、現にある境遇に満足してると、破竹に勢いで出店するドラッグストアやコンビニ、ディスカウンターに囲まれ手遅れになるということです。
大事なことは、事業とは、あくまでも、表面的なカタチや売上ではなく、収益を確保するため販管費の運用方法にあるということです。
そして、そこで働く人を最大活用し収益を上げる構造に変えていれば成功確率は大きく変わってくるということです。
さあ、貴社では、まだ、売上にこだわり続けますか?それとも、人を活かした仕組みづくりで、成功を手にしますか?