今週の儲かる繁盛店の視点 第384話:「経営革新力を高めていくための原理原則とは?」
「先生、経営の意志や指示が伝わらず、現場での改善が進まないんです。…」とある企業の社長からのご相談です。
お聞きすると、人時生産性についての会議を開催しているものの、業務改善として指示したことが現場で実行されない。とのこと。
――――おっしゃる通り、月一回程度の定例会議では、軌道に乗せるのは難しいといえます。
しかし、次にやるべきことの答えは社長ご自身が既に口にしておられますのでその通りにすすめていけば良いのでは。と申し上げました。
「え?どういう意味でしょうか?」ときょとんとした顔つきの社長、
――――口頭指示だけで現場を動かすというやり方を何とか変えたい。と言っておられるからです。
会議の席で社長の発言は「空間に文字に映し出され伝わるのではなく、音としてその場で消えたことが、人の記憶によって思い出され伝わっていく」ものだからです。量が多いほど伝わりにくくなり、簡潔明瞭なことばになっていなくては伝わらないということです。
「それが上手くいかないので苦労してる」という声が聞こえてきそうですが
人の記憶に頼って伝えようとするため、伝わらず、実行が遅れるわけで、人の記憶にたよらないツールや仕組みを使うことで、情報の伝わり方は全く変わってきます。
人時生産性を進める上で、実際に使っていくツールはたくさんありますが、ここでは、「絶対外すことのできない」3つについてお話しします。それは…
・人時売上実績表
・非効率業務一覧
・作業指示書(レイバースケジュールプログラム)です。
順にご説明していきますと、まず、人時売上実績表ですが、読んで字のごとく、「私の担当売場は、このくらいの人時数で運営をしています」といういわゆる担当部門の売上と人時の情報です。
一般的に、「売上概算」などはどこでも共有されていますが、それに対して、かかっている人時について、共有しているところはありません。
「売上に合わせ人員は増減させているから、人時まで出す必要があるか…」という声が聞こえてきそうですが、
店舗人時の約7割前後が、準備などの作業にかかっていることを鑑みれば、売上ではなく人時こそ正しく把握しなくてはならないことはお分かりになると思います。
簡単な話、人時も生産性改善ツールとしてシンプルでわかりやすいつくりになっているか?ということです。
よくあるのは「人時を社内で共有ツール化」させていくために、どういったことをやればいいのか?というご相談です。ザックリ申し上げれば、次のようなものが挙げられます。
「人時を活用していく目的・方針」
「人時についての具体的な内容」
「標準的な人時数の設定」
「人時を使った企業の将来像」
「人時の特徴」
「人時運用のすすめ方」
「人時を使った業務改善の方法、効果測定、実績把握」
「顧客満足度と人時売上」・・・等々
社内の共有ツールにしていくためにやらなくてはならないことは、結構あり、どれも、生産性を引き上げていくには欠かすことができないものです。
実際、「非効率業務一覧」の仕組みを動かすためには、無駄な業務を洗い出すためにこういったことに触れず、課題解決することは出来ません。
ところが、こういった手順を踏まず、いきなり店舗に行き「何か困ってることありませんか?」的な聞き方で、改善要望を聞き出そうとする人がいます。
お気持ちはわからなくもないのですが、このやり方で現場の改善が進むようなことはまずありません。
「何か困ったことありますか系」の人の場合、経営に対し「こういった成果の見込めるやり方があります」という意見を出すようなことはしません。
理由は簡単で、結果を変えていく施策を打ち出すことは、社員として、今までやってきたやり方を否定することになるわけで、優秀な人材ほどそういったことは避けて…と考えるからです。
今あるものを変えていくには、前に突き進むブルドーザーのように、目の前の山を切り開き、それを平らにしていく覚悟がなければ、成果など期待できないからです。
さらに、「結局のところ、何をやっていけばいいのか?」そこがハッキリしていなければ、指示すら出すことができないわけで、ここで威力を発揮するのが、作業指示書(レイバースケジュール)です。
これは、今まで店ごとにバラバラであったものに基準を設けていくもので、作業量と人時をもとに組み立て運用していきます。
要するに、こういったツールや仕組みを活用し、どういった考えや方針に基づいて人時についての取り組みを実施していくのか、最初の取り組みは何か月で、会議体の頻度や回数、進めていく実施内容はどうなのか…といったことが、はっきり表示されているかどうかということです。
何も小難しい話をしようとしているわけではありません。ビジネスを成功させるために「当たり前のことをしていきましょう」と申し上げているだけです。
もし、あなたが、家を買うと決めそこで数千万円かかるとしたら、月々のローン支払料金だけを示し、「お得なので買ってみてください」的なセールスパーソンが来たら、どう思いますか?ということです。
そのメリットが書かれたパンフレットがあって、リスク説明を受け必要情報をもとに「買う・買わない」の判断をしていくわけです。
チェーンの生産性改善も同じで、常識的に考え、その収益を上げるまともなやり方になっているか?という話です。
定例会議で現場の意見を持ち寄ればなんとかなるのでは…というほど甘くはないのです。
誤解を恐れず申し上げるとすれば、日本の生産性の低い原因の一つに、国内チェーン業界の人時生産性の低さが課題になっています。
業界の取り組みの遅れが、国としての人時生産性向上の足かせになっているということです。
次期へ向け、最低限、基本的な実施内容や、投資金額、投資回収期間はどれくらい…といったことが提示されていて、はじめて「ビジネスを成功に導く審議テーブルに着く」と言えるわけで、それが 成果を引き出すもっと確率の高い方法だからです。
さあ、貴社では、こういった準備をせずに、「伝えることに」まだ時間をかけ続けますか?それとも、「伝わる仕組みで」無駄を節約し、本当にやるべきことに時間を配分できる手法で、業界再生の先陣を切り成功を手にしますか?