今週の儲かる繁盛店の視点 第409話:「見えないことを見えるようにするのが社長の責任。このあたりまえがなぜ、わからないのか?」
先生、営業時間拡大を考えているのですが…とあるチェーン社長さんからのご相談です。
聞くところによると、この先、営業時間の拡大を考えておられて、作業割当を見直そうとしてるものの、現状のままやろうとすると人が足りなくなる問題が出てきて、困っておられる。とのこと。
団塊世代が会社の中核を担っていた1990年代から、30年が経過し、その世代はすでにリタイアしています。
労働人口の多かった世代がいなくなって人手不足になることを受け、2000年代になって物流センターをつくったり、EDI化で伝票レスにしたり、レジをセミセルフにしたり、業界各社はさまざまな投資を実施してきました。
しかし、収益の柱である店舗運営のやり方は、当時と比べほとんど変わっていません。
「そんなことはない、人時実績を取得したり、作業割当表を作り始めている。」という声が聞こえてきそうですが
―――全体の収支はどのくらい変わりましたか?とお聞きすると
「えっ?」と言葉に詰まります。
物流センターを作ったのに、店舗人時が減らない。EDI化したのに人時も棚不足金額も減らない。レジをセミセルフにして応援しなくてよくなったのに売場担当者の残業時間が減らない。
こういったご相談が、特に増えつつあります。
――――どのようにして、それらの投資をすること決められたのでしょうか?とお聞きすると、
「他社の改善事例の効果」とか「現場が楽になるから」という説明を聞き「メーカーの持ってきた改善見込データを元に…」と少々バツの悪そうな答えが返ってきます。
自動車カタログ数値に出ている、燃費を信じて購入する顧客がいないように、特殊な環境下で実験された数値と、実際購入して使った場合とは必ず差異が出ます。
そもそも、社長自身、各店舗はやり方も、すすめ方もバラバラだということが、分かっていながら、自社で計測すらせず、主管部門の提案を鵜呑みにすれば、当然起りうるべきことです。
しかし、スタートしてしまってからでは、何をやってもムダです。これがわかっていれば、スタートラインに着くまでに何を考え、備えるべきか分かるはずだし、そこで手を抜けばすべて崩れてしまうことは中学生でも分かる話です。
弊社は常日ごろセミナーなどで、「主管部門に任せる部分改善」と、「人時売上による全体構造の改革」は「全く別の活動」と申し上げています。
その最たる理由は「主管部門でやる部分改善には全体に与える投資回収計画がない」といういわゆる主管部門長の決裁でお金を使っていくやり方だからです。これがホントに恐ろしいのは、社長自身が「無意識で行なっている」という点です。
本来、全体の収益構造をかえていくためには、社長主宰による業務改革PJを発足させ取組みます。そう言ったドメイン方式が圧倒的に事業目標達成率が高いからです。
ところが、多くの企業はこれを店舗運営部長や、商品部長に丸投げし社長自身が主宰されようとしません。
理由として、「うちは 店舗数が少ないから…」といった言葉がよく返ってきます。
社員が本部に何百人もいるならともかく、本部機能も店舗で兼任してるとこもあって、改善投資計画で業務改革PJを組もうにも難しい…という声です。
たしかに、もっともらしい言い分です。
――――では、新たに店舗を出店する場合はどうですか? と質問してみると、
みなさん口を揃えて「それは、社長主宰の開店プロジェクトで進めていきますよ」と言われます。
簡単に言えば、部門の垣根をなくし全社一丸となって出店計画をたて進めなくては、成功などできないからです。
そのため、開店までの経費はプロジェクトとして位置付けられます。
何か新しいことを始めるのに、必ず準備金が必要だと分かっていればしっかり腰を据えできるということです。
しかし、実はこの質問には、もうひとつ重要なことが隠されています。
海のものとも山のものともわからず、儲かるかどうかわからない土地に出店するにはどう考えていくか?という点です。
私たちは、日常生活やビジネスの現場において、意識するしないにかかわらず、様々な経験や学習をしています。
この様々な経験や学習を積み重ねる中で「このケースの場合は、こうするのがふつう」といったことも、無意識に蓄積していってるということです。
それを具現化しているのが、開店準備室プロジェクトであり、進出していくための出店計画書を作り、そのベースになる出店長期損益計画で、初期投資、運転資金が算出していきます。
そして、出店3カ月報告、1年報告、3年報告がなされ、改善を積み重ねていきます。
成長企業はこうした出店計画を次々と策定し、成長には投資が欠かせないという挑戦をし続けているから勢いがあるのです。
人時生産性を上げていくのも同じで、現状見えていないものを「こんなイメージや、こうするのがふつう」と誰もが思って展開できるようにすることが成功のきっかけになり、その可能性を高めていくわけです。
なぜ、こういったことが出来なくなったのかといえば、まさに最初に申し上げた人口減による出店の機会が少なくなってしまったことからです。
そういった経験の無い社長がふえていることに加え、主管部門は予算の中で、上手くいきそうなことだけ、やればいいと思ってしまっているからです。
もちろん店舗のことを考えてる部門も中にはありますが、宣伝販促では商品部主体ですし、施設保全では水光熱費や清掃費の削減であり、物流の積載効率改善といったことも同様といえるでしょう。
彼らの活動は、本部会議で行われることが多いため、社長の目に映り、耳に聞こえてきます。各主管部の活動は「社長の目や、耳に入れてナンボ」だからです。
そして、最も理解すべき重要なポイントは、主管部門の仕事は、店舗の人時改善に対して行わるものではなく、自部門の功績だという点です。
つまり、そのために、業者やメーカーの提案を集め自部門の功績にしていくということです。社長が本質を見ようとしないまま主管部に丸投げすればするほど、企業が本来目指すべき収益目標と、かけ離れていくということです。
さあ、貴社では、まだ、主管部門の部分改善を容認し、見えるとこだけで効果の出ないことをやり続けますか?それとも、社長自らが見えるようにすることで先手を打ち、本質的に収益構造を変えていきますか?