今週の儲かる繁盛店の視点 第416話:「なぜ、企業が自らコントロール出来るものを持つことが重要なのか?」
先生、ウチもようやく作業割当表をやり始めたのですが、なんと申しますか、上手くいかないのです。とある企業の社長さんからのご相談です。
聞くところによると、現状の作業を書き出すことから始めたものの、いざやってみると、その種類と量が多すぎて、何をどうやればいいのか?まとまらない。
そうこうするうちに、売上が下がり、コストだけが膨らんだままの状態が続いたことから、社長自らセミナーにご参加になられた。とのこと。
――――書き出された作業の種類はいくつぐらいありましたか?とお聞きすると
「うーん?」と言葉に詰まります。
チェーン企業というのは、難しい接客もなければ、専門的な教育をしなくても高い売上が得られ、社会的な地位が認められる、商売的には大変魅力のある業種です。
しかし、一方で知っておかなければならないことは「専門知識が不要で売上とれる=商売として簡単」ではないということです。
むしろ、過去から引きずってきたやり方を見直し、成長軌道に乗せていくことが実に大変…というのが現実だからです。
現実問題として「収益を上げていくためのカタチが見えない」ため、どうすすめていけばいいのか、非常に分かりにくいわけです。
例えば、メーカーや製造業などの場合、収益の柱となる競合商品は誰でも購入することができ、分解すれば構造を知ることもできます。
しかし、小売企業の場合、収益の柱が店舗オペレーションになるため、その競合店内部は見ることが出来ないため分かりません。
見方を変えれば、店舗オペレーションで高い利益を生み出す力を徹底して磨き上げた企業が、高い収益力のある企業になるということです。
ところが、半世紀以上続いた人口増による売上を重視した、表面的な売場づくりや集客手法に時間をとられ、人時売上そのものを知らない企業が大半をしめることになります。
しかし、2008年に労働人口減が始まり10年以上が経過した今、少ない人員で売上を獲得していくことの重大性に各企業が気づき始めました。
というのも、コロナやロシアの侵攻といった社会情勢リスクによる輸入コスト上昇により、水光熱、物流費、保守といったあらゆるコストの増加が企業として吸収しきれない状況になってきたからです。
本来であれば、それをカバーするべく、人件費コントロールをしなくてはならないはずですが、すでに高止まり状態でその役割を果たせない状況にあるということです。
「そうは言っても どこから手をつければいいのか?」という声が聞こえてきそうですが、
全社の収益構造を変えていくことが目前の課題であることから、まずは、社長主宰の収益構造改革プロジェクトを立ち上げていくことになります。
企業として発展成長するために、どのくらいの人時売上が必要になのか?そこから目標達成へ向けて、導入手順に沿って、作業指示書を設定していくことになります。
既に、こういった体制を数年かけて事前準備してきた企業であれば、一店舗導入するのに一カ月もあれば準備が整い、二カ月目からテスト稼働が出来、三カ月たてば動かせるようになっていくものです。ところが、こういった事前準備を飛ばして無理にすすめようとすれば、先の企業のように、入口から「何をどうやればいいのか…混乱する」ということが起きるわけです。
「今やってる作業を 入力できる作業割当ソフトさえあれば出来るはず」と言った声も聞こえてきそうですが、
言わずもがな、人時売上が低い作業モデルを作業割当ソフトに入力したところで、数値がマグレで上がるコトはあっても継続的に上がるコトはありません。
人時売上を使うということは、これまで個人任せであったやり方を、一旦会社が吸い上げ、効率の良いやり方に組みなおしたものを、作業指示として現場に落とし込んでいくということです。
このメリットは、企業が作業内容の全容を把握しコントロールできる点にあります。そしてその資格を与えられた管理者をおくことで、個店別に利益誘導ができるようになるということです。
このように、表からは見えにくい本来企業に必要となる、仕組みづくりを先送りしてきた企業体質が、冒頭企業の体力を奪っていたことは明らかということです。
一方で、すでに人時売上の体制を整えておられる企業では、店舗オペレーション改革に必要な人員を積極的に店舗から本部に集めています。
そのために、まず店舗作業に穴が開かないように担当者を新規採用した上で、売場長を副店長の職位に昇格させ、そこから業務改革プロジェクトに起用する人事異動体制に変更したのです。
この結果、一時的には、店舗人時は増えることになっても、管理者が作業指示書の運用ができるように、プロジェクトが指導にあたることから、その数カ月後には、人時売上が上がっていくようになります。
これまで、人に仕事がついていたため、その人を異動させると、売上が落ちるのでは?という恐怖心から、その組織硬直化が問題になっていたのです。
しかしこの経験を通して、人に仕事がついた組織硬直化は会社や各個人にとってマイナスになることに気づき、10年間行われてこなかった人事異動が行われるようになり、後に大きな収穫となって返ってくるものになりました。
仕事柄、大勢の社長やその幹部の方々を見てきましたが、いつも感じるのは、上手くいくという人は、本人が望むと望まざるに関係なく、「なぜか、こうした覚悟を決めざるを得ない境遇に追い込まれる」ということです。
もちろん、ご自分の強い意志で、覚悟を決める方もいます。しかし、どちらかといえば、追い込まれる方が不思議と多いのです。
「覚悟を決めて、事にあたりはじめた人は、必ず結果がついてくる…」ということです。
これは、真面目に仕事をやるとかそういう次元の話ではありません。
新たな取り組みをしていくということは、必ずといっていいほど、逃げ場がない状態に出くわすものだからです。
文字通り「背水の陣」になるわけですが、そこで本人も驚くような凄い力を発揮する。ということです。
そして、もう一つ興味深いことは、人時生産性の取り組みをはじめますと、必ずと言っていいほどご褒美が与えられるという点です。
企業成長を大きく左右するのに重要なことは「社内人材の発掘」です。
理屈で考えれば、最初は何でも幹部社員で考えて、成果がある程度だせるようになってから、そのやり方を若手に伝授して…というほうが筋は通りそうなものです。
事実は不思議なもので、プロジェクトに招聘された副店長候補が、店舗現場に食い下がって調査を続け、店の人時を引き下げる方法をいくつも見つけ出すということが起きます。
本人の希望もあり次の人事異動で、店長に抜擢したところ、その店での活躍も目覚ましく、着任店の人時売上を一気に全店トップまで引き上げる数値をたたき出したのです。
気づけば、プロジェクトスタート時マイナスだった店舗の利益率は2.5倍に達し過去最高益に達していました。
人時売上取り組み導入店は3割にも満たないことから、導入店を増していくことによって、全社の営業利益率がこの先5年10年と伸び続け、全社人時売上目標達成に手が届くのも夢ではないということです。
さあ 貴社ではまだ、目に見える人手に頼った低収益構造を容認し続けますか?それとも未だ見えてない人時売上戦略を手にし、長期的成長を実現させますか?