今週の儲かる繁盛店の視点 第423話:「店舗と主管部の利益相反を放置し足元を見失った企業の行きつく先は?」
「先生、ここにきて少し回復してきたんですが、実は・・・」とある企業の社長さんからのご相談です。
聞くところによれば、今取り組んでいる販促強化策が功を奏しているものの、売上前年割れは相変わらずで、値上げを遅らせたところ大きく減益になってしまった。とのこと。
――――仕入れ価格以外のコスト増を、どこで吸収するかは決まっていますか?
「え!そこは…」と言葉に詰まります
思い起こしていただきたいのは、数年前、高騰する採用費や年次有給休暇取得義務化が問題となったにもかかわらず、業界として業務を減らす仕組みを作ってこなかったことです。
店舗に人員削減を丸投げし、人件費が高止まり化した業界の問題は、まだ記憶に新しいことと言えます。
そして 今回、さらに、あらゆるものが値上がりし、なかでも商品調達額は、資金繰りに直結するため喫緊の課題になっています。
「商品価格は上がった分を売価に転嫁する予定ですが・・・」という声が聞こえてきそうですが
前代未聞の原料高は、すでに各部門で吸収できる範囲を越えています、さらに、この先2回目3回目の値上げが予定されているとなれば、抜本的な収益構造を見直しをしなければ想定外のことが起きる?ということです。
仮に、通常の延長上で各主管部門に指示を出せば、各主管部門だけでは対処できないことから、問題は先送りにされ何の解決策も見いだせないまま更に厳しい状態になるのは火を見るよりも明らかだからです。
こういった急激な環境変化のある時は、大手の中には、各主管部が人員を自主的に見直しを行なったり、店舗人時をコントロールする専門組織があるところもあります。
しかし、そういった備えのない中堅企業の場合、現状の延長上ですべてのことが議論され進められていきます。
よくあるのは、定例の営業会議の中で、「商品部ではこんな交渉をして、ここまで価格を抑え月間おすすめ品のアイテム数を2倍に増やしました」とか、「販売促進部では売上浮上策としてチラシを増やしました」とか
「この先さらに電気代があがりますので店舗ではエアコン温度を節約してください」と呼びかけてますとか、あるいは、「ガソリン代が上がったので、物流部では混載を増やし納品回数を減らします」といった、ことを主管部門は提案してきます。
どれをみても、各主管部門にとってみれば、自部門の評価に繋がる効率改善になるものです。
但しそれは、「通常時に限れば」…ということが前提になります。この前提が崩れた時、それらの効率改善策は、貴社の営業利益率は目標に対してどのくらい不足になるか予測されましたか?とお伺いすると、
「うっ!」と言葉につまります
企業の収益向上は、投資による収益改善でしか見込めないわけですが。各主管部の活動施策が全社の数値を上げることにどれだけ寄与しているかどうか?
そのためには、主管部門ごとの投資回収計画で、各店舗の人時売上がどう変化し、営業利益率にどのように変わってくるか?ということです。
一例を申し上げれば、商品部が提案する月間特売アイテム数を増やせば、その価格切り替えのための、作業が店舗では発生します。
価格強化チラシを週一回増やせば、年間50回ものチラシ切り替え売場作業が発生します。
エアコンの温度を無理に上げ下げすれば、熱中症などで体調を崩し休む人が増え、その分他の人の時間外労働が増えます。
納品トラックの本数を減らせば、店舗での作業人員の貼り付け時間が大きく変わってくるため、常に多めの人時確保が必要になります。
このように、主管部門が実施する企画と店舗の間で、利益相反が起きうることから、全体の収支計画を明らかにしていく事が急務となってきます。
簡単な話、年商15億のお店で人件費を2億とした場合、主管部門企画を実施することで、これが5%上がるとすれば年間1千万が増加し、10店舗で1億の増加になります。
各主管部が提示した改善額の積み上げと、全社の9割を占める店舗人件費の増額とどちらが高いかは、よく考えていただきたいということです。
確かに、中には、こういった施策をやることで、売上が伸びコスト増を上回るドル箱店もあります。
しかし、今は、伸びない売上に、増えるコストに苦しんでいる店が7割を占める中、その主管部のやり方を売れない店で実施したらどうなるか?ということです。
こうした、店舗特性の違いをよそに、「売れてる店の形ややり方を真似れば売れるはず」と安易に考えてたり、運営部長が、他社の話題の店を見聞きしたりしてると、「そういった話題店に寄せようとする」力が働きます。
どの企業においても、ドル箱店は売れてる店だけに、「斬新的な売り方見せ方」や「売上確保のための商品ボリューム」で見せて目立つことが求められます。
これと同じことを、売れていない店にやらせればどうなるかということです。売上が上がることが第一とすると、「手をかけ目立つ売場を作れば、売上利益はついてくると…」まことしやかに、ありもしないことがささやかれ、収益を悪化を招くことになります。
かつて、主管部門にとっては、新商品企画、システム化、話題性つくりといったことは、ドル箱店のようなモデルで成果をあげていくことが本業でした。
しかし、「仕事の本業」と言う言葉の意味を正確に捉えれば、自社の収益構造はどのようにあるべきか?を理解しなければ、危険な状況になるということです。
ドル箱店を使いそれを「見せて」「目立つ」ことは、企業全体を有名にするには有効です。
しかし、売れない店にとっては売れない量を、仕入れ、値下げをすることに人手をかけることは、儲からないわけで、百害あって一利なしということです。
本当にお客様から支持を得られるチェーン企業、つまり、今、不振の店の収益構造を変え成長軌道にのせるためには、この利益相反を乗り越えていくことに共感を得られる経営者にしか出来ないということです。
いずれにしろ、人時売上を上げ、対顧客店舗コンディション向上に向け、しっかり取り組まれている企業が、まだまだ少ないだけに、ここを実現していく手法を身につける方が、今の業界でブレイクスルー出来るポイントになるということです。
さあ、貴社ではまだ、現状の延長上にゴールはあると思っていますか?それとも、誰も手を付けていないとこで、大きく突き抜けることで成功を実現させますか?