今週の儲かる繁盛店の視点 第476話:「なぜ、怒りで動かしてきた企業では生産性を上げることが出来ないのか?」
先週は、30度越えの真夏日が続く気候でした、梅雨日が続いたとおもえば、急激な温度の変化は体に堪えます。誰でも湿気と急激な温度変化で体力を消耗するだけでなく、集中力も下がるためイライラしたりするものです。
見方を変えれば、些細なことから、つい声を上げたくなったり、トラブルが起こりやすい季節だからこそ、そういった対策を考えるのに適してるともいえます。
先日も
「先生、うちは、怒ってやらせてきたんです。それを、何とかしたいのです」
とある企業の社長さんからのご相談です。
お話をお聞きすると、先代の時はトップダウンで怒って動かす経営があたりまえだったそうで、社員から見ると、やり方がころころ変わる風にしか見えず、その場しのぎに逃れようとする現場の体制を、なんとか変えたいとのこと。
おっしゃるとおり、人口が増えていた10年くらい前までは、何をやっても売れていきましたから、トップダウン型でやっても経営数値を維持することは出来ました。
しかし、人口が減り、少ない人数で、利益を上げなければならない状況においては、店舗のコストと売上の2つの歯車の状態を捉えながら指示を出していくサイクル型の経営が必須となってきます。
当社は、これまで、100社以上の経営者とお会いし、小売りチェーン企業を訪問してきました。どの企業も、最初に本部にお伺いすると、幹部の皆さんの顔は厳しい表情で、どこかピリピリとしたムードの雰囲気がひしひしと伝わってきます。
何か新しいことといっても、販促中心の売り上げ強化策と、昔ながらの人海戦術がメインで収益改善が望めないことから、心穏やかではないのは当然といえるでしょう。
昨年どれだけ売れた企業でも、今年になって売れず、コストが上がるとなると、社内の活気は失せ、どんよりとした空気が漂い始めます。事業部長の怒声が飛び交うも店の士気は上がらず、責任の擦り合いの会議が増えていくといったことが起きます。
そういった本部の動きは、店長やチーフ、パートさんまでにすぐに伝わります。ただならぬ雰囲気を察知した、新規採用された人が次々辞め、そういったことはお客さんに伝わり、いい人材が集まらなくなります。
その昔は、仲間も多くいて相談することもできましたし、社員の中にも面倒見がよい人もいました。
今は、無理やり人を削ってしまったことから教える人員が揃っていない中、個人の力や人間性に頼った手法で回していることから、これでうまくいくのであれば奇跡といえます。
こういった背景から、これからの時代、「怒って動かす」方式のメリットはほとんどないといえます。
仮に、社内の業務が標準化され、誰にでも気軽に聞くことが出来、それが、どこかわかるとこに書かれていればどうでしょうか?少なくとも、個人の力や人間性の云々以前に戦力になってもらうことが出来ます。
入社したら、周囲の目や、機嫌、といった空気を読むやりかたから、会社が利益を出していく手順が書かれた、指示書を読みそのとおりにやるやり方に変えることで即戦力化が進み、職場の雰囲気や、企業業績は大きく変わるということです。
断っておきますが、周囲に気を遣うことが不要ということではありません。まず、作業指示書に基づく仕事ありきで考えることが大事で、それさえ共有できれば、どこに問題があるのか一目瞭然になるので、ピンポイントで対処することができます。
それで、即戦力になってもらい仕事が回り始めれば、イライラして大声を出す必要もありませんし、逆に事細かに、箸の上げ下ろしまで、くどくどと時間をかけてやるムダな時間もなくなります。
ただし、作業指示書を運用していくのは、簡単でないことも申し上げておきます。特に、注意しなければならない点は、その運用方法が体系化され、だれもが一目でわかるようになっているか?ということです。
ポイントとして、1つ作業指示を出したら、それに対しての質問の有無を確認していくことが重要になってきます。
そのため、作業指示書上では、一度に二つ以上のことを求めてはいけない。というルールがあります。「この時間に○○と△△と…やってください」という指示内容は絶対にタブーなのです。
こういった指示は、相手の頭の中を混乱させる原因となり、指示を出す側も適切な情報を受け取ることが出来なくなるからです。
作業指示書を使うというのは、いわば言葉のキャッチボールで、ひとつのボールを相手めがけて捕りやすいようにお互い投げ合うということです。
もし、ふたつ以上の指示を出したい場合は、2つお願いしたいことがあります。
まず最初の指示ですが・・というように、ひとつづつ項目を区切って指示をするようにします。こうすれば、相手は混乱することはありません。
私は「作業指示書」とは「確認書」と言い換えても良いと思っています。少し乱暴かもしれませんが、そう断言してもいいほど、指示と確認は直結してるのです。
例えば、人時売上を上げていくための非効率業務改善プランづくりに欠かせない、現場のパートさんにヒアリングするという場合でも、「もっと店をよくしていくには、何があればいいと思いますか?」とそのまま、ぶつけても、スンナリ求める答えが手に入るわけではありません。
「どんな場面での作業か?」「その作業の不便な点はなにか?」
「その作業を行う際に、こういう部分が変わればもっと便利なのに」と思ったことはないか?
このように、作業指示書をもとにいくつかの質問を投げかけ、重要なことは何かを確認しながら、相手と一緒になって、最適解を見つけていかなければならないからです。
これは、非効率業務のヒアリングに限ったことではありません。適切な指示書により、相手の頭の中を整理し、重要な情報や事実を確認しながら一緒になって最適解を導き出す。
これが、ビジネスにおける収益力の高い企業がおこなっていることの正体なのです。
さあ、貴社ではまだ、トップダウン式の今まで通りのやり方を続けますか、それとも、サイクル方式で人時生産性を高める手法で大きく飛躍しますか?