今週の儲かる繁盛店の視点 第522話:「なぜ、スタート地点でやるべきことを間違えるとゴールにたどり着けないのか?」
先生、うちは利益率の高い店と低い店の差が大きいのでそこを直していきたいのです。
とあるSM(スーパーマーケット)企業の社長さんからのご相談です。
お話をお伺いすると
粗利中心の収益改善には限界があるため、なんとか、販売管理費改善型に移行させていきたいとのこと。
――――今、取り組まれていることはありますか?
比較的人員が揃っている店舗をモデルにして、標準化を進めています。
ところが、うちは店型がバラバラなので、標準化してうまくいくのかどうかわからないのです。
――――御社考える標準化の意味を教えていただけますか?
同業他社でもやっているように、品出し、仕分け、商品加工・・・といった業務ごとに、いくら時間がかかるのかを調べ標準時間を決めていく、ことと考えています。
しかし、実際に調べた時間を足し上げていくとなぜか数値が合わないため、とりあえず、今はその7掛けを目安にして実態に合わせています。
――――作業時間はどのように測りましたか?
「作業をされてる方に自己申告をしてもらって設定しました」
――――他社の業務区分を使い、実態に寄せるために7掛けをしたものを標準時間にして、御社の店舗をコントロールすることが、本当に出来ると思われますか?
「うーん・・・」と言葉に詰まります
同業他社企業とはいえ、自社とは店舗数も売上規模も従業員数も違います。
品ぞろえ数、売場の配置、ワンフロアなのか多層階なのか?通路幅や長さも違います。
入っている基幹システムはもちろん違います。
ざっと思い浮かべただけでも、これだけの違いがあります。もし、同じやり方で成功するなら日本中のSM企業すべてが、すでに高い人時生産性になっているはずだからです。
そうは言っても、それを調べるとなると、手間と時間がかかることから、どこかのシステム企業が作った、同業他社のやり方を真似て・・・というコトが起きます。
しかし、
これをやってしまうと、1店はできても、2店目以降はできなくなり、そこでこのプロジェクトはとん挫します。
理由は簡単です。
自社に合わない言葉を使い、そこに数値をあてはめようとするからです。
言葉は現実を創造すると言われるように、現実に沿わない言葉はいつかは、必ずつじつまが合わなくなります。
元の数値を数値を改ざんしたり、隠蔽したりする企業が、決して業績が良くなることがないのはこうした些細なことから始まります。
最初は大変でも、自社のお店を一店舗ずつ丁寧に調べ、各店の基準を決めていくことがスタート時にやっておかなくてはならないということなのです。
そういったことを調べていくことで、そもそもやらなくてもいいことは何か?といった店舗業務の本質が見えてくるものだからです。
わかりやすい例のひとつに、スーパー各店で毎朝開店前に行われる、店長による全体朝礼の事例があります。
これは、少し前にお手伝いしていたSM企業で実際にあった話です。
こちらの企業では、先代の社長の時から、開店前朝礼は必須項目になっていました。
「コミュニケーションが大切」といったルールがあって、全ての店で毎日やり続けることがこの企業の伝統であったわけです。
しかし、現場から 「朝の多忙な時間に全店朝礼をやるのは、今時おかしいのでは?」という声が何人かの人から出てきたため、非効率業務のひとつとしてPJで取り上げることになりました。
確かに、20年前のように、大勢の人がいたころであればまだしも、今はそれより少ない人数でやっているわけです。
連絡事項、確認事項を全員集めて伝えるスタイルについてどうなのか?とはだれしも考えることです。
そもそも、売上や人時であれば、前日までの状況を一覧で見れるように掲示すれば済みます。業務連絡などは、情報連絡ボードなどに掲出して各自に確認してもらえばいいわけです。
実は、この朝礼問題、どの企業にいっても、必ず現場からでてくる 非効率業務の代表的な例の一つです。
そこで店舗の人に、なぜ、ムダな事と、感じるのでしょうか?と改めてお聞きすると、
「作業を止めて、参加しなくてはならないため作業効率が下がる」
「品出しが終わっていないのに、全店朝礼で何度も同じことを聞かなくてはならなのか?」といったことがでてきました。
ようするに、「店長の開店前朝礼が重複業務になっていて、作業の効率低下になってる」という実態を社長に気づいて欲しかった!という実にありがたいご意見だったのです。
そこで、朝礼含め、店舗のミーティングはどれくらいかかるのか?業務改革チームに計測してもらうことにしました。
毎日行われているのは①店長朝礼、②部門長ミーティング、③部内ミーティングの3つのミーティングがあることがわかりました。
実際に、全店朝礼は、毎朝20人くらいの人が開店前に集まり店長が10分間くらい話します。10分×20人=200分 これを365日やると、年間1200時間で時給1200円換算とすると、人件費は146万円/年です。
また、部門長ミーティングは 店長+5つの部門マネージャーが集まって30分はやります。こちらは、30分×6人=180分。これも365日、年間1095時間で時給1800円換算すると。197万円/年です。
さらに、各部門内ミーティングを10分としても、一部門4人×5部門=20人 ここでも、146万円/年がかかってきます。
この三つを足すと合計489万円。約年間500万円の人件費が店内ミーティングに人件費が直接的にかかっていることが分かりました。
確かに、②部門長ミーティングや③部門内ミーティングは、必ず事務連絡があるため中止には無理があると思います。
一方で、店長朝礼はどうかといえば、話の内容をお聞きすると他のミーティングと重なるすることが殆どで、個人の残業につながっていた。ということもわかってきました。
仮に開催回数を月一に変更すれば、365-12=353日減るわけで、140万円分の人件費が浮いてくるわけで パート社員一人分の年間人件費が減らすことが出来ます。
実際に、お手伝いさせていただいてる企業では、直接人件費に加え、各担当者の残業時間が減ったことで、結果2倍近くの300万円/年間人件費を削減するこができたのです。
これに一番驚いたのは、社長ご本人であったということです。
インフレによるコストが高騰している中、必要な情報が社内でちゃんと伝わり、ムダな時間を減らすことを考えた時、
こうした、店長朝礼に代表されるような、業務項目の洗い出しを行い、それぞれに どのくらいの人時がかかっているのか?人時改善プロジェクトスタート時に明らかにしていくようしていくことが、最初にやるべきこと。ということです。
社長や店長がどんなに、立派なことを毎朝言い続けても、売場に商品が並ばなければ、1円のお金にもなりません。
こういったことを変えていくには、自社に合った方法で業務を洗い出し、どのようにすべきか?社長が軸となってブレないようにしていく必要があるからです。
さあ、貴社では、まだ、こうした形骸化した業務をそのままにしますか、それとも、社長が軸となってブレない仕組みをつくり、利益率の高い店舗運営を実現しますか?