分かったつもりで仕事をしていませんか?
今年も余すところ、あとわずか。来年の経営目標も決まり、そろそろ人時の予算を設定しておくタイミングがやってきました。
少し前になりますが、とあるチェーン企業から予算についてのご相談があり、すぐに人時生産性についての取り組みを進めることになりました。それから半年ほどたった時の、その企業の社長の一言がこれです。「人時生産性の取り組みを進めていく中で、店長含め、店舗のみんなと共有して進めることの大切さを改めて痛感しています。人時予算を設定するとき、これまでは昨年ベースでやってきたんですが、このやり方は駄目だということが分かりました」
言葉にすれば わずか数行なのですが、ここに至るまでには相当悩んで考え抜き、今までのやり方ではうまくいかないと気付かれたことと思います。
人時生産性が低い企業は、このことが理解できません。『働き方改革』が叫ばれる中、本やどこかで聞いたことを基に「なるほど、ここがポイントね」「要するに〇〇ってことだね」「そこは専門家に頼んでるから」と分かったつもりで、現状のうまくいっていないやり方を続けているからです。
1カ月やってみて、結果が伴ってないにもかかわらず、そのままであれば半年、1年たっても何も変わりません。そんな企業に多いのが、見聞きしたどこかの企業の改善事例を自社に置き換えて「こんな感じで、こんな風に……」とコツをつかめば簡単にできると思っていることです。
冷静に考えてみれば分かることですが、物事の核心というものは突き詰めて考え抜くことで初めて分かってくるのであり、表層的なことをいくらいじっても分からないということです。
他社をまねしても簡単に儲けは上がらない
このように、それまでのやり方を続けた結果、どうしようもなくなってから「どうにかなりませんか?」というご相談が増えています。
人時生産性の取り組みは経営そのものであり、トップダウンで進めていくものです。体系化されたプランがないまま、レイバースケジュールを入れたり、現場の意見を聞いてから……というように、いきなりボトムアップ的なやり方で進めても、従業員の混乱を招くだけ。経営への不信感が募ることにもつながります。
「答えは現場にあるのではないか?」という声が聞こえてきそうですが、ビジネスは学校の授業のように、どれが正解かという答え探しではありません。課題を設定し、それをひも解くプロセスこそが重要なのです。
例えば果物一つとっても、産地の気候や各農家の畑の状態によって、甘かったり、酸味が強かったりと全く変わってきます。隣の畑のやり方を見よう見まねでやっても同じ味にできないように、作り手の農家は自分たちの理想の味を目指し、1年間さまざまな取り組みをして作り上げた結果が、農家ごとの味になるわけです。
小売業界も同じです。同業他社のやり方をまねしてできるほど簡単にいかないのはご承知の通りです。商品や建物施設は見えても、それがどのように利益に寄与しているのかは見えません。自社のあるべき姿を目指し、課題設定して1年間さまざまな取り組みをしてきたから、企業ごとに違う人時生産性の結果が出てくるわけで、その記録を塗り替えていくのは経営の使命といえます。
「それが分からないから困っている」という声が聞こえてきそうですが、人時生産性の改善には、記録を塗り替えるための課題設定とプロセスが必要であり、それを探してくるのが社員の役目になります。
「知識を増やす=お金を儲ける」ではない
これからは売上げが下がり、少ない人手で利益を確保していかなくてはならないので、これまでの分かったつもり、理解したつもりといった曖昧なやり方では、全く歯が立たなくなります。
「ウチは、海外視察や話題の店は見ているし、〇〇協会や○○サプライヤーの勉強会には出ている」という声も聞こえてきますが、語弊を恐れず申し上げれば、それは単に知識を増やしているだけで、それではお金を儲ける行動にはなっていかないということです。
どの業界でもそうですが、儲けをしっかり出している企業の共通点は、得た知識を、儲かるための筋道を立てることに使っていることです。
セミナーの席上で「社長主催による店舗の人時生産性についての会議は何時間やっておられますか?」とお聞きすると、皆さん「うーん」と言葉に詰まります。
人時生産性の改善に取り組まれている企業では、社長が毎月課題を設定し、週次の業務改革会議で進捗を確認していきます。1カ月は4、5週ですから、1週ごとに仮説を立てて、実態を把握し、新しい取り組みをしてみると、4週目には一つの結果が出る。こうしたスピード感で動いていきます。冒頭で登場してもらった企業では、目標実現に向け、社長主催のプロジェクトを中心に全てが動いています。
1カ月かかっても結果が出ないという企業は、こうした公式会議自体が社長のスケジュール表に記載されていないことも多いのです。冒頭の企業では社長主催の人時生産性会議の中で生産性にまつわるさまざまなテーマが設定されていきます。先般の会議では「誰でも同じ作業ができるようにする」という取り組みについて議論が交わされました。
実際に、残業と無駄な作業時間の多い売場を集中的に実態調査したところ、1時間に何十回も冷蔵庫に出入りしたり、主任が全ての業務を抱え込んでいて時間内に作業が終わらないといったことが繰り返されており、多くの問題が浮き彫りになってきました。
この背景には、本部からの指示書が分かりづらいといった問題や、マニュアル不在、教育体制の不備といった課題が浮かび上がってきました。そこで、今後2週間でマニュアルや教育プログラムを作成し、実際に運用してみて、その結果を報告することが決まりました。
これまでは「そんなのどこかできる店にやらせて、それを横展開すればいい」とか「やり方がきっちりしてなくても、ある程度業務が分かる人を採用すればそれなりにできる」といった意見が多く、改善の取り組みがなかなか進まなかったのですが、この会議をきっかけに一気に動くようになりました。
環境を整備して人時生産性が変わってきたら、その内容を10店で展開すれば、一気に10倍の利益が増えることになります。前出の経営者が語っていた「人時生産性の取り組みを進めていく中で、店長含め、店舗のみんなと共有して進めることの大切さを改めて痛感しています」という言葉は、経営としての課題設定と改革プロセスが明確になったからということが分かれば、納得がいきます。
具体的な事例はセミナーでお話していますが、この連載でも「なぜ人時生産性が重要なのか?」「チェーン店経営者の願望である利益更新をし続ける個店を育成していくには今、何をしていけばいいのか?」を解説していきます。
さあ、貴社では、来期に向け、利益を何倍にも増やす準備はできていますか?
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