『コロナショック』でイベント・集会は自粛、外食・小売り・サプライチェーンが打撃を受け、先行き不透明な中、経営者の皆さんは頭を抱えておられることと思います。
小売りチェーンの中でも、ドラッグストア、スーパーマーケットはコロナ特需で売上げが上がっていますが、すでに国内の一般家庭は食品と日用品の在庫でいっぱいになりかけていることから、「この先の落ち込みにどう備えていくか?」に注目が集まっています。
一方で、コロナ流行のピークは過ぎ、2カ月先を走っている中国では封じ込め策の効果がみえてきたことから、製造業は9割が動き出し、大都市圏では小売店や飲食店の営業が再開し、経済は徐々に平常に戻りつつあるようです。
「2カ月もこれだけ大きく人とモノが止まった後はどうなるのか?」はとても興味深いところですが、どうやら中国の大手企業では、賃金引き下げ策が打ち出され、企業存続のためには解雇より賃下げといった動きになっているようです。
こうした中、日本の小売企業は先を歩む中国の動向に注視し、それを自社に置き換えて「これまでの課題はどこにあり、それをどう変えていくか?」という構造改革に取り組むことが大事です。
この先について言えることは「状態はコロナショック前に戻ったとしても、数字が同じに戻ることはない」ということです。
諸外国のコロナ流行が沈静化しないことには人の動きは戻りませんし、『モノづくり工場』である中国企業の稼働率が上がり、サプライチェーンが動かなければ品切れは改善されません。
そして、一度冷え込んだ消費者の節約意識は、へこんだ分は戻るどころか消滅することを織り込むと、今後は売上げ2~3割減を想定した上で、手立てを講じなくてはならないでしょう。
経済が大きく変化する時は新たなイノベーションが起きる
リーマンショックの時はリストラが増え、優秀な社員が他企業に移る中、『安全性』のある情報を個人で探せるツールとしてスマホが台頭し、GAFAと呼ばれるIT企業が大きく発展しました。
東日本大震災の時は物流が滞り、近くて便利なコンビニやドラッグストアに加え、ネット通販が『利便性』を軸に品揃えを充実、その勢いを増しました。
今回の新型コロナウイルスは人から人への接触などで流行したことから、人の手に頼る仕事には高いリスクもあることが分かりました。今後、日本の企業では業務を人の手を介するものと介さないものに可視化することで、『信用性』を上げていくことになるでしょう。
労働集約型の小売業界では、小・中学生の子供が休みになるとその親が仕事を休まなくてはならなくなったりと、人が欠けることで業務が回らなくなり、営業時間を縮小する動きが相次ぎました。
これは人に仕事がついているから。これからの小売企業は、各店舗・各部署の業務ごとに「誰がその作業に関わっているのか」「各売場ではどのような作業をしているか」を分かるようにし、リモートで作業指示書を作成できたり、人の配置を組み変えたりできるようになっていくでしょう。
現状把握できていない人についた業務を区分けして可視化すれば、誰にでも業務を回せるようになり、作業指示書上で指示も出せるようになります。これはリスク管理と生産性向上の面でプラスに働くので、顧客・現場・経営との間の『信頼感』を高め、安定した利益構造づくりにつながっていきます。
苦戦のチェーンストアの中でも生産性を柱に成長し続けるベルク
これから数カ月かけて、日本の経済が元の状態に戻っていったとしても、チェーンストアに楽観的な状況が待っているわけではありません。
少子高齢化による売上減少とコスト増という大変な状況に適応していくには、『信頼感をベースにした生産性向上』は欠かすことができないのです。
今年の1、2月のこの連載で取り上げた、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスのマルエツやカスミ、いなげやは高コストの典型的な代表例でしたが、こうした厳しい環境にあっても、安定して収益を上げている企業もあります。
もちろん、その企業が理想というわけではありませんが、売上高が同規模で、同じような商品を扱っているにもかかわらず、先に挙げた企業とは次元の違う結果を出しているスーパーマーケット企業があるわけです。
埼玉を中心に関東で116店(20年2月末)を展開するベルクはその一つ。ベルクは、2019年2月期の営業収益が2255億円、営業利益率4.4%の企業で、過去10年間、増収と安定した営業利益率を確保し成長を続けています。いなげやと比べると売上高と店舗数はほぼ同じにもかかわらず、2019年度の第3四半期でいうと営業利益率は19.2倍にもなっています。
※期末はベルクが2月、いなげやは3月
いくつか大きな違いを申し上げると、一つ目は物流収支を加味した本来の粗利を示す(営業収益対比の)営業総利益率の違いです。ベルクの25.9%に対して、いなげやは30.6%で、5ポイント弱も高いということです。
両社ともに筆頭株主がイオンであり、イオンのPBを取り扱っていて似た品揃えです。ところが、いなげやの場合は高い販管費を下げる仕組みがないことから、本業の儲け具合を示す営業利益率確保のため、どうしても商品に高値をつけて売らざるを得ない状況にあるといえます。
人口増の時代であれば、こうした方法でも売上げが極端に減ることがあまりなかったわけですが、人口減で少子高齢化が進んだ今はそうではなく、現状、苦戦されている企業には、この方法から抜け出せていないところが多いのです。
冷静に考えてみれば分かるのですが、売上げというコントロールできないものしか収入源がない場合、それが下振れしたら資産の切り売りか、増資、融資といった資金調達をしなければ危険な状態になってしまいます。
もう一つの違いが、営業利益率を支える(売上高対比の)販売管理費率はというと、ベルクは22.1%で、いなげやの31.4%に対してやはり9ポイント以上低いコストで運営しています。売上規模も品揃えもほとんど同じのスーパーマーケットチェーンでありながら、事業構造はまるで違うといえるのです。
※販売管理費率(販管費率)とは、売上高に占める販売管理費の比率。
経営戦略に『生産性』の文字が入っているかで明暗を分ける
ベルクの『2019年2月期 決算説明会』の資料を見ると、『生産性の高さが「ベルクの強さ」』を掲げており、既に何年も前からLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)に取り組んでいます。
これは上がり続ける人件費を、総人時数でコントロールする手法で、これによりベルクは人件費比率を10.4%に抑えています。
人時生産性に興味をお持ちの方ならお分かりになると思いますが、店舗と本部をつなぐグループウェアソフトを導入したり、勤務シフトをエクセルに置き換えたLSPを使ったりしたぐらいでは、人件費は下がりません。
人件費を下げるためには、人件費を一度、人時(ニンジ)に置き換え、非効率業務をやめる仕組みを作り、組織的に削減を進めることが欠かせません。
こうして人件費を中心に販管費を下げられれば、その分を価格引き下げに使えますから、ナショナルブランド商品であれば、他社より安く売っても、十分利益確保できる状態を作り出せるわけです。
販管費を下げることは企業の収支構造を変えることであり、商品開発や出店・改装、LSPや自動発注をはじめとしたシステム投資を可能にする資金力を確保できることにもつながります。
つまり、『売上至上型』の事業活動と『人時生産性最大化型』の事業は似て非なるものであり、この違いが大きな利益構造の違いを生み出しているということなのです。
企業ごとの考え方があるので、どうこう言うつもりはありませんが、経済は人口の増減や移動によって動くもの。これからは加速していく人口減、労働力不足を逆手に取って事業構造を変革していくことが必須です。
詳しくはオンラインセミナーでお知らせしていますが、環境を変えることはできなくても、経済が停滞しているこの時期だからこそ、他社に先駆けて構造改革に取り組むことはしやすく、今はその最高の時なのです。
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