(写真と本文は関係ありません)

「先生、ここ数年のダウントレンド、これをカバーするために、コスト削減はやってはいるのですが……、どこまでやればいいのでしょうか?」とあるチェーンの管理部長からのご相談です。

「やるべきはコスト削減じゃなくて、低コストで運営できる仕組みづくりです」とお答えしました。

 そもそも、今の店舗運営のコストが適正なのかどうか見えていない中、前年主義で、それも売上高から逆算した数値で無理やりやろうとすれば、動けなくなるのは当然のことです。もし、1つの店舗でできたとしても、他の店舗は条件が異なるので、単年改善はできても、翌年以降また悪化の一途を繰り返すことになります。

「いい店はすごくいい、ダメな店はボロボロ」はダメ

 こうしたことを把握できていない会社は、「コスト削減と、収入拡大は別問題」とか「店の中には最少人数でやってる店もあって、休みもろくに取れない」とか「売上げさえ上がれば何とかなるのに」と表層的なことばかりを議論し、低コストオペレーションに転換することがなかなかできません。

 そうした企業で内情をお聞きすると、多くの赤字店とトントンの店を少ない黒字店の利益でカバーしている構造が見えてきました。儲かっている店も儲かっていない店もいっしょくたに考え、全体のバランスをとろうとするから、ダウントレンドから脱却できないのです。

 こうなると、看板が同じだけで、中身のオペレーションは全く違う単なる個店の集まりになり、チェーンの力が全く発揮されてこないわけです。いい店はすごくいい。しかし、ダメな店はボロボロで利益が出ない。こうした十把一絡げの体質がこの先、致命的なことになるのは明らかです。

 理由は簡単で、人口減でドル箱店の収益ダウンと同時に、赤字店のリカバーができなくなるダブルパンチを受けるからです。

 本来であれば、現状、ドル箱店は儲かっているわけですから、当然、将来の成長戦略をにらみ、店舗設備の改修や作業効率を上げる仕組みを入れて、さらなる成長を見いだしていくことが必要です。

 ところが、稼いだ資金が毎月、赤字垂れ流し店の補てんに回ってしまえば、成長戦略どころではなくなります。これを放置すれば、客数の多い店ほど建物の老朽化は早く進むし、ベテラン社員は定年を迎え、収益力は落ちていきます。

難題を与えられ、「やれ!」では何一つ前に進まない

 さらに大事なのは、こうした店舗を改造成長させていくための、ノウハウが社内に1つも残らないということです。

 本来であれば、業務改革をする店舗を設定し、そこで儲かる店舗運営をしていくための調査をし、必要なものや人材に対して、投資をすべきなのです。

 ところが、先の企業のように一見、表面的にバランスがとれていて、店舗間格差のある会社は、そうした業務改革の重要性に気付かず、成長するチャンスを逃してしまうのです。

 ここでは、単に人員を強化するだけでなく、そうした改革を進めるオペレーション力を強化していくことになります。

 現状の店舗運営コストは適正なのか? 利益に結び付いていない業務はどこにあるのか? そこで生まれた資金は何に再投資すべきなのか?

 こうした利益構造の在り方を変え、戦略を立てる執行機能が重要なわけです。

「そんな人材は社内にいないし、いたとしても主管部門が離さない。どうやってやるのか?」といった声も聞こえてきそうですが、私は「探すのではなく、そうした人材を作り増やす仕組みをつくる」と申し上げています。

 何でもそうですが、人は経験を通じて、学習していきます。「君は優秀なんだからこれぐらいできるだろう」といきなり難しい課題を与えられ、「やれ!」と言われても、努力と根性だけでは時間ばかりかかって何一つ前に進むことはありません。

 社内では優秀な人材であっても、それは与えられた専門分野に限ったことであり、畑違いのことをいきなり言われても前に進めないのは当然のことです。

 そこでは業務改革の基本から学ぶことになります。公式が理解できれば難問も解くことができるからです。

今、必要なのは「業務改革を担う専門人材」

 批判を恐れずに申し上げると、誰でもできる主管部門のルーティンワークよりも、社長のビジョンを実現させる業務改革を担う専門人材こそが今、必要であるということです。

 ここで、多くの会社が間違えるのが、優秀な人間に対して、他社のカイゼンの研修をやらせたり、集合教育をさせようとすることです。

 というのは、他企業のカイゼン方法をまねても、小売りチェーンのように人に仕事がはり付いている企業は、その根底から変えていかない限り、製造業やメーカーのように、機械化やIT導入+現場のカイゼンでは全く応用が利かないからです。

 人は本来、変わることを嫌うもので、これは人間の性ともいえます。チェーン経営のその大半が人に依存しているが故に、本質的に変わることができないのです。

 そういう意味では、こうした変わることを楽しむ、生きがいにできる人材を企業として、どうやって育成することができるか?

 これが企業成長につながるキーポイントになってきます。

「変わる」「変革」「革新」といったことは今に始まったことではありません。当たり前のことです。10年前の人口が増えていたときとは、明らかにチェーン企業を取り巻く環境は変わり、売れ方も使われ方も全く変わってきているのは紛れもない事実です。

 その昔、何百億売った店舗も売上げが半減、中には3分の1になってしまったという店もあります。駅前立地であったり、近所に集客施設が後からできたりという好立地であったが故に、その環境に甘んじ、変化することを拒んできた企業の末路といえます。

メタボの会社の先にあるのは閉店・閉鎖の連続だ!

 厳しい環境に身を置くことで、知恵が出て、筋肉質の会社となります。甘い環境に浸かってしまえば、金だけが出るメタボの会社となります。その先にあるのは、閉店・閉鎖の連続で、気付けば一人負けの状態が待ち受けています。

「先般も、このままでは終わりたくない。何か新しいことにチャレンジしなくては!」と危機感を持たれた企業が弊社の門をたたかれ、業務改革に向け、新たなスタートを切られました。

 その経営者のもとで働ける社員さんは、本当に幸せだと思う限りです。お金を払ってもなかなか手に入れられない「変わる楽しみ、生き様」を社長という師から仕事を通じて学ぶことができるからです。

 人時生産性を使った業務改革の進め方には、数多くの公式があります。難しい問題もこの公式に当てはめることで、答えが見えてきます。生産性を上げるのは、単なるコスト削減だけとか、売上げだけという別物で考えるのではなく、一貫性を持って考えることで初めて結果に結び付くことになるのです。

 そのパズルを解く方法で、次に社員に「変わる楽しみ」を授けることができるのは、経営者であるあなたの番です。

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