Amazonをうまく使い、大きく稼ぐ
2019年1月18日
「競合の新規出店に加え、ネット通販によって、前年割れが続いています。人時生産性について取り組まなくては……と考えているのですが」
とあるチェーンの経営者からのご相談です。
――Amazonを使ったことはありますか?
「いいえ…」
――お時間をつくって、Amazonで「売り・買い」をやってみてください、とお伝えすると
「ネットはあまり詳しくないので……」と声が小さくなります。
Amazonが、コンビニが、ドラッグストアがと、不振理由を上げる方は多いのですが、彼らが何をどうやって稼いでいるのかに興味をもっておられるチェーン経営者が少ないのにも驚かされます。
アマゾンのアルバイト採用単価は1500円
創業者・ジェフベゾスが小売りチェーンのウォルマートを徹底研究して、あの通販モデルを創り上げた話は有名です。そして、今やネット通販では、世界最大の規模と企業価値を誇るまでになりました。
最近、話題となったのは、その採用アルバイト単価の高さです。Amazonのアルバイト採用単価は時給1500円。物流センターは24時間稼働ですから、深夜はさらに高くなります。コストコが1200円時給をつい先日発表したかと思えば、それを上回る金額です。
一方、小売りチェーンの首都圏のアルバイト単価は、時給1000円前後。それで、このままでは利益が出ないと大騒ぎをしているのに、なぜAmazonではこんなに高い時給が出せるのかということです。
この時給を出し続けても採算がとれる仕組みがある
理由は簡単で、この時給を出し続けても十分採算がとれる、人時生産性が確保できる仕組みで回っているからです。
Amazonの物流拠点となる、フルフィルメントセンターでは1拠点当たり数千人規模の従業員が働いています。
そこには Amazonのホームページからアクセスした人や企業が、売り・買いが素早くできる商品注文、決済、物流の3つの機能が備わっています。
もともと、Amazonはアメリカで本を通信販売で売り始めたのがスタートです。本は荒利が低く、品数が膨大で、重くて、場所をとる。顧客にとっても、新刊やちょっとした専門書となると、都心の大型書店に行かないと買えない。近所の書店に注文すれば2週間前後かかるといった、売り手も、買い手も本当に労力が必要な商品でした。
アマゾンは売り手と買い手の問題を解決した
その両者の問題を徹底的に解決し、多くの顧客にそのメリットを提供するプラットフォームとして創り上げたのがAmazonです。今や生鮮食品を含め、2億アイテムといわれる商品の取り扱いオペレーションは、他ではマネのできないものとなっています。
実際に、アカウントを設定し、出品してみると分かるのですが、とても簡単にモノを売ることができます。出品 注文、決済、物流の業務をインターネットで申し込むだけで、一手にやってくれるのです。
ビジネスアカウント登録をして有料会員になれば、Amazon倉庫に納品し発送してもらうことも可能です。
メーカーは通販部門を置かなくて済む
メーカーや製造業各社にとってみれば、通販部門を置かなくても、Amazonを使うことで、販売、決済、配送を自動的にやってくれる仕組みにのせることができます。
出品には手数料は掛かるものの、販売完了から支払いまでのサイトが10日ほどであることから、出品者の資金繰りが軽減され、出品のハードルが低く抑えられています。そのため、多くの出品者が参画することから、取り扱いアイテムが多くなり、ないモノはないといった前代未聞の品揃えとなっていったのです。
チェーン小売業での活用はまだ一握り
既にチェーン企業でも積極的に参加している企業もありますが、ほんの一握りです。
これができるのはPB商品を持っているということですが、活用の仕方によっては、社内で取り過ぎてしまった過剰在庫を、全国に販売することも可能となります。
買う側の視点でみると、Amazon普及のおかげで、本を書店に探しに行って、無ければ注文して後日取りに行くといった待ち時間と移動の時間はなくなり、それと同時に書店に行く回数も減り、今では書店には行くこともなくなりました。
24時間365日、いつでも買いたいときに買えるという生活者の願望に応えたプラットフォームを開発し、それを徹底的に磨き上げたのがAmazonなのです。
リバースエンジニアリングで欠けている点を探す
一方で、われわれ小売りチェーンは、これをどう利用するかということですが、ジェフベゾフがやってきたように、今度はAmazonをリバースエンジニアリングし、それを小売りチェーンが使えることはないかを考えるべきです。
リバースエンジニアリングとは、工業製品(自動車、製造機器など)を分解し、その内部構造や動作原理を探ることです。実際に倉庫状況が分からなくても、ネットの仕組みを使うことで、われわれ小売りチェーンに欠けているものが数多くあることが分かります。
売り手の常識「品切れ」をアマゾンは覆した
例えば、「品切れ」です。国内の小売りチェーンは、この品切れ問題について、無関心で軽視しています。
書店の例でいうと、欲しい本が店頭に無いのは当たり前という売り手の常識が長年続いていました。
この常識を覆したのがAmazonで、そのホームページを見れば、手に入らない本はまずありません。「品切れ」がないストレスフリーの状況を提供したことで、今までの商売のやり方を続けた書店がどうなったかは、皆さん、ご存知のことと思います。
品切れはお客さまを流出させてしまう
今、オーバーストアの時代を超え、さらに人口減少が進んでいます。
お客さまがいつも来てくださる、あなたのチェーン店で、もし欲しい商品が「品切れ」していたら何が起きるでしょうか。
コンビニやドラッグストアで間に合うものなら、そちらに流れるでしょうし、雑貨や家電であれば、十中八九、スマホからAmazonで購入することになります。
一度購入すれば、購入履歴が残り、消耗品など繰り返して購入するものであれば、次回からの買物がさらにしやすくなる仕組みがスマホ画面で表示され続けます。
アマゾンは「満足感」で顧客の願望を叶えた
「うちは、そんなに品切れなんてないはず」という声が聞こえてきそうですが、
―――昨日の品切れ件数は、1店舗当たり何件ですか?
とお聞きすると
「うっ」と言葉に詰ります。
自社の店舗の「品切れ」実態が把握できていない状態で、この先の予測が立たないまま、売上げ・客数が減ったのはAmazonやコンビニのせいと考えたところで、何の解決にもなりません。
ジェフベゾフは、その小売りチェーンの弱点にフォーカスし、ネットで解決して見せたのです。
それは、「商品がその場で手に入る=所有感」から「商品がその場で予約できる=満足感」で顧客の願望を叶えたということです。
小売りチェーンは品切れ対策から始める
小売りチェーンがやるべきことは、こうした原点に立ち返り、品切れをさせない仕組みづくりと、そのリカバリー策を立てていくことです。
仮に、1店舗当たり1日50件の品切れがあった場合、1年間では1万8250件の品切れが発生していることになります。このうちの1割、約2000件の品切れに遭遇した顧客がAmazonで商品検索をし始めれば、確実に客数が減るのは火を見るより明らかです。
まして、スマホ世代の顧客ほどAmazonをフル活用しているので、今後「品切れ」問題に着手しない企業はますますジリ貧になると断言できます。
Amazonが、コンビニが、ドラッグストアが、という前に、人時生産性の高いAmazonから多くのことを学び、改革すべき点に早期に取り組むことで、売上げ・客数減は食い止めることができるのです。
さあ、貴社ではまだ、Amazonを不振の理由にしますか? それともAmazonを活用し、良い部分を積極的に取り入れ、悪いところを是正していく戦略をとりますか?
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