商業界オンライン2018年7月20日に 弊社代表伊藤の記事が掲載されました
業務改善で結果が変えられない理由とは
部分改善のまま縮小均衡の道を進みますか?
2018年7月20日
「先生、上昇傾向の人件費が一転して下がり始め、人時生産性が改善してきました。ありがとうございます」とあるチェーンの社長の一言です。
こちらの企業はもともと利益水準が高く、店舗改装を中心に収益を上げてこられました。不思議なもので、売上げの好調な企業ほど、こうした業務の改善への取り組み遅れ気味となります。このチェーンも例外ではなく、新店や改装依存から脱せず、販管費は上昇傾向にありましたが、社長自ら、高い人時生産性目標を掲げることを課し、人時生産性向上について口を酸っぱく言い続けたことで、成果が出始めたところといえます。
「四半期ベースで、売上客数が厳しい中で、業務を減らすことに着手していなかったら、大変なことになっていたと思います」と運営部長も少しホッとされ、笑みがこぼれていたので、必死にお手伝いしたかいがあってよかったと思っています。
手を伸ばせば届くものは目標とは言わない
私も、こちらのチェーンに対しては当初からかなり厳しいことを言わせていただきました。そうした中で、運営部長自らがさまざまな手を打ち、つま先立ちで背伸びをし、精一杯ジャンプし続けたことで、得られた成果といえます。
何でもそうですが、手を伸ばせば届くようなところにあるものは目標とはいいません。チャレンジして背伸びをしても全く届かないところにあるものが目標であるべきで、そこに向け、経営陣として「もうこれ以上無理!」というところまでやり切った経営者だけに、初めてゴールへの秘密が明かされます。
高い目標を掲げることで、業務改善が大きく進んだ
このチェーンでも社長自身がそうした高い目標を掲げることで、これまで停滞気味だった業務改善の動きが大きく変わってきました。
例えば、作業指示書のLSP化を推進し、効果的な人時配分の適正化を図るために、週次のミーティングで他部門への人時移動を積極的に行うようになりました。
また、本部からの報告書や計画書の作成もガイド時間が設定され、今までは社員が残業してやっていたものを、所定内でスケジュールに組み入れてやることで、集中して時間内に終わるようになっています。
本部を中心に、こうした業務項目を洗い出し、整理していくことで確保できた時間を、品切れ点検であるとか、商品ロス点検業務に再配分しています。その結果、販売管理費は下がり、荒利益高が増えていくようになり、一つ一つの業務が収益を引き上げる業務に生まれ変わることになりました。
本部が動きを変えれば店舗の意識も変わっていく
本部がこうした動きをすることで、店舗で「やってもいいんだ」「やればいいんだ」「やればできるんだ」といった意識が芽生え、非効率な業務を発見し、店内でできることを標準化していく体制を根付かせられたといえます。
少子高齢化、労働人口減少という漠然とした課題に対して、経営陣が主体となり、具体的に業務量を減らしていく決断をしたことで、店舗がそれを受け、行動するようになった結果といえます。
店舗運営本部が人時生産性向上の架け橋に
人時生産性を上げていく上で、店舗だけではできないことがたくさんあります。その架け橋となるのが、店舗運営本部の役割となります。
「どうすれば、そんな店舗運営ができるのか?」という声が聞こえてきそうですが、先のチェーンが、最初に取り組んだことは、経営指標を「売上げから人時生産性」に切り替えたということです。売上げは毎日見ることができますが、それを作っていくための経費は見ることができません。そこで、日々変わる人時と売上げを確認できるツールを使い、それを定着させていきました。
「売上げアップのためなら何でもアリ」が改善した
一番の変化は、これまで売上げを上げるのであれば何でもアリといった店舗運営体制が改められたことといえます。この売上げであれば何人時まで使うことができるといった指標を本部が出していくことで、店長が明確にコスト意識を持つことになります。
また、各店舗のコスト超過がなくなることで、ローコストオペレーションの基盤ができ、利益は安定するようになっていきます。
そこには、売上指標だけでは絶対に得られない幾つもの確認ポイントがあり、それに向かって行動することで、誰でも利益の出し方が分かるようになります。
業務改善を横展開するときにある高い壁
大事なことは、こうしたことをチェーンオペレーションとして横展開をさせていくことですが、ここには高い壁があります。
1店舗でやるのと、その取り組みを広めるために2店舗目以降で展開させていくのとでは、そのアプローチ方法が全く違うということです。
よくあるのが、改装のように表面的な部分だけを取り上げ、同じやり方でやろうとして、失敗し頓挫してしまうことです。
理由は単純で、1店舗目がうまくいくのは、社長主催のプロジェクトとして本部が支援体制をとるからです。2店目以降は「一度やっているので、きっとできるであろう」という希望的観測のもと、責任体制の不明確なプロジェクトのまま進めようとします。だから、「できない理由」「進まない言い訳」「遅れる言い訳」が正当化され、断ち切れとなるのです。
伝えるだけでなく「指導していく」仕組みが必要になる
冷静に考えてみれば分かることですが、今までやってこなかったことを「たった一度やってできた」という理由でそれを伝えられても、人を動かすことはできないということです。言い方を変えれば、人に行動してもらうためには伝えるだけでなく、「指導していく」仕組みが必要となるということです。そこでは、個人の資質に頼るのではなく、組織的に、誰でも分かるようなものを作り上げておくということです。
特に、問題となるのは地区部長、店長という幹部への教育であり、まずはその組織から作らなくては、「幹部への教育指導」は絶対にできないということになります。
取り組みは責任体制を明確にした組織づくりから
実際にやった方なら分かると思いますが、こうした調査や、LSPへの移行については、最初は一定の時間を必要とします。しかし、これらはツールですので、車の運転やスマホと同じで、活用すればするほど、上達することができます。
店舗運営も同じで、作業指示書を運用しやすくしていくには、LSPの導入はもちろんですが、それを管理する組織を作らなくてはなりません。さらに、その取り組みの数値結果がどのように推移し、それをどのように改善させるのかといった戦略を立てる組織を作るためにはコストもかかります。
つまり、人時生産性を引き上げていくには、プロジェクトから責任体制を明確にした組織に移行し、予算設定をしておかなくてはならないということです。
決断できない経営者に存在理由があるのか?
このときに「うちはまだまだ早い」とか「そのコストはちょっと」とか「大手とは違うから……」といった躊躇した発言が出るようでしたら、その企業には前進するための一歩は踏み出すことができないと断言します。
そうした企業の経営者は、たとえお金があっても、優秀な人材がいたとしても、業務改革をやることはないからです。そうした状況で業務改善の企業研修をいくら受けたところで、経営陣が取り組むと決断しなければ、何一つ前に進むことはありません。極論をすれば、これからの時代、そうした企業の経営者に存在理由があるのか? 一人の経営者として、違和感を覚えます。
詳しくはセミナーでお伝えしておりますが、店長任せの研修による業務改善は、部分的な微量な改善はできても結果を変えることはできません。企業全体の人時生産性を引き上げるためには、経営陣が主体性を持ち、業務改革プランを創り出すことで初めて結果が変わることとなります。
さあ、貴社では部分改善まま、縮小均衡の道を進みますか、それとも業務改革で新たな成長を手に入れられますか?
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